dream2

□重なった幸せ
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『サー、ちょっと相談があるのだけれど』

クロコダイルが自分の部屋に帰ると、そこには一人の女がいた。

「……無断で人の部屋に入っておいて、開口一番がそれか」

飄々として掴みどころのない彼女と彼は、友人とも恋人ともつかないような関係である。

しかし、いくらなんでも 王下七武海の部屋に忍び込むのはどうなのだろうか。

一般とは明らかにずれた彼女の感覚に、クロコダイルは少し頭痛のする思いだった。

『そう言わないで、結構な死活問題なの』

「死活問題?」

思いっきり彼の眉間にしわがよる。

『真剣なんて似合わないって言いたいんでしょ。
分かってるわよ、そのくらい』

そう言って少しふてくされた顔をした。

それでも気分屋な彼女が出て行かないのは、やはり、重要な話だからなのだろう。

「で、何だ。相談ってのは」

クロコダイルは定位置の椅子に収まると、新しい葉巻を出して火をつけた。

それなりに聞く気になった合図である。

『 私ね、好きな人がいるのよ』

ふっとため息をつきながら彼女が言った。

思わずクロコダイルはほうけてしまう。

『ちょっとその反応は失礼じゃないかしら』

口を尖らせて女はまゆを寄せる。

思わずほうけてしまったクロコダイルの反応が気に入らなかったのだろう。

「あ、あぁ悪い」

落としかけた葉巻を灰皿に置くと、彼はもう一度彼女に向き合った。

『告白はまだしてないわ。
年上だし、私なんかよりもうんと綺麗な人がいつも隣にいるから』

『仕事上のパートナーだって彼は言うけど、正直気が気じゃないわ』

そう言って女は悲しそうな顔をする。

「どんな奴なんだ?」

クロコダイルが続きを促した。

『 素敵な人よ、言葉じゃ言い表せないくらい。
それにとっても魅力的で、彼に恋してる人数は、両手でも全然足りないくらいよ』

うっとりした表情で、興奮気味に彼女は続ける。

『目は鋭くて、冷たいの。爬虫類みたいに。視線があっただけでゾクゾクするわ。
動きはとても優雅で、どこかの貴族みたいなの。彼、海賊なのにね。
雨がとっても嫌いで、少しでも降りそうになるとすっごく不機嫌そうな顔をするの。
いつもは歳相応なのに、たまにとっても子供っぽくなってしまって』

まあ、そこも素敵なのだけれど。

フフッと女は笑った。

少し顔が赤い。

「他には? さっき年上だと言っていたが、いったい何歳なんだ?」

対するクロコダイルの顔は無表情だ。

ポケットから葉巻を取り出すと、優雅な動作で火をつける。

『顔はとっても綺麗よ。
でも、人相がいいとは言えないわね。
大きな傷もあるし、本人は全く気にしてないみたいだけど。
背が高いの。背伸びしたって届かない。
いっつも眉間にしわを寄せてて、滅多に笑わなくてね、もっと楽しそうにすればいいのに。
葉巻が好きで、よく吸ってるわ。
あと、ワニが好きみたいで、たくさん飼ってるの。自分もワニみたいだからかしら。
歳は、そうね、40と少しだと思うわ。聞いたことがないから、よくわからないけど』

そこまで言ってから、女はクロコダイルの 目をじっと見た。

真剣な表情だ。

『で、私は彼と友人と恋人の中間のような関係を保って来たのだけれど、いい加減白黒はっきりつけたいの。
いい口説き方はないかしら?』

クロコダイルは少し考えてから、口を開いた。

「……そうだな。
俺が思うに、そいつはあまり自分のテリトリーに他人が侵入するのをよしとしない性格だろう。
例えばお前が無断でそいつの部屋に入っても締め出されないようなら、気があると思っていい」

それを聞いて、女は嬉しそうに笑った。

『それは嬉しい知らせね。
でも私は彼を完璧におとす方法を知りたいの。
私だけこんなに夢中だなんて、許せないわ』

「心配いらない。そいつだってお前 と同じくらい夢中になってる」

嫌に確信めいた口調でクロコダイルは言った。

『あら、本当?』

「ああ、保証する」

彼は深く頷くと――お世辞にもその動作は似合っているとは言えなかった――彼女に向き直った。

「ところで、俺もお前に相談があるんだ」

『なあに?』

こてんと女は首をかしげる。

子供のようなその動作は、彼女にとてもよく似合っていた。

「俺は前々から気になっている女がいてな、飄々としていて掴みどころがない。
どうしても射止めたいんだが、どうすりゃいい?」

首をすくめてクロコダイルは女に尋ねる。

『そうね、きっとその人はとっくの昔にあなたが好きになっ てると思うわ。
告白するつもりみたい』

「ほぉ」

『もし今以上に夢中にさせたいなら、
……そうね、告白の返事の代わりにキスでもしてみたら?』

「なるほど、参考にしよう」

クロコダイルは葉巻を灰皿に押し付けた。

少しの沈黙。

『ところで私、あなたにもう一つ話があるの』

女が口を開いた。

ほんの少しだけ、瞳が揺れている。

「何だ?」

『愛してるわ、サー。ずっと前から。
お付き合いしていただけないかしら?』

重なった幸せ
(なんでいきなりディープキスなのよ!)
(お前が望んだんだろ?)
(違う!)
(……嫌いになったか?)
(ッ! なるわけないわ。……大好きよ、クロコダイル)
 

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