dream2

□タバコの煙の行方
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ふわり、ふわり……白い煙が浮いては消える
ゆらり、ゆらり……白い波がうねっては消える
風が煙を攫うように、波音が音を攫うように、いっそアタシのことも……



「カルネー今日のメインは鴨でよろしくー良いのが入ったからー」
「ぉお!任せとけ!」
「パティはどうせプリンでしょー?牛乳ハケさせたいからミルクプリンにしてー」
「よっしゃあ!戦うコックさんに任せとけ!」
「んんー……んじゃ食前酒は白のシャンパンかなー」
「、客はもう席についてる、出来たもんからじゃんじゃん出してやれ!」
「あいよ、オーナーゼフ……あんたらーアタシの提供について来いよー」
「「なめんじゃねぇぞ酔っ払い娘」」
「だから、口が悪いんだよ極道コンビ」


海上レストラン“バラティエ”
ここが物心ついた時から暮らすアタシの家で、オーナーゼフの城
最初は人しか居なかったこのレストランも、噂が人を呼んで今や大所帯
それでもコック希望者は後が立たない程にまで、名の知れたレストランになってた


「スープは手前の大鍋からハケさせてー奥のつはディナー用に寝かせてるからー蓋開けた奴はオロす」
「前菜上がるぞ!次もすぐ出るからさっさと持ってけ!」
「出す時は最低皿まとめて出せって言ってんでしょー?間に合わないってのー」


スープの仕込み、担当の割り振り、メニューの構成、食材の仕入れと管理、それから提供
アタシもいちよう“副料理長”ってわけで、フルコースの内一品は最低でも仕上げなきゃいけない
食材の仕入れと管理、メニューの構成はオーナーと一緒にしてるけど、そうなってくるとコックたちへの指示出しは、必然的に現場に立ってるアタシになる
これだけの、いやこれ以上の仕事を、今までサンジは一人でこなしてたんだよねー


「いらっしゃいませ、本日の食前酒“アンジュエル”でございます」
「やぁ、今日も盛況だね」
「おかげさまでミスター、本日は何ともお美しいお連れ様をご一緒に」
「フフッ……お上手な方ね、あなたが噂の女副料理長さんかしら?」
「噂になるほどの者では、まだまだ若輩ですよ」
「今日のスープはの仕込みと聞いてる、楽しみにしてるよ」
「恐れ入ります、それでは優雅なひと時をお過ごしください」


馴染みの客も増え、何故だかアタシの名前まで独り歩きをはじめてた
最初は何だかなーって感じだったけど、グランドラインまで届けばいいなーとも思った


「アンタも腕上げてんだろうなー……サンジ」


サンジが海賊船に乗っていったあの日から時間は流れ流れ、やんちゃしてることは風の噂で聞いていた
それにしてもあの手配書、残念にも程があるって
稼働が落ち着いた合間に裏手に出てタバコに火を付けて、サンジの手配書を手に取った


「……これじゃ、アタシが物凄いB専だと思われるじゃんよー……フゥー」


サンジ、アタシもタバコ吸えるようになったよ
あんたが吸ってる銘柄とは違うけど、コックのくせによくこんなの吸ってるね
でも店の中は吸ってないよ、そこがサンジとアタシ違いかな


「グスッ……アタシ、サンジと違ってタバコの煙に慣れないやー……ケホッ……煙が沁みて、涙がでる」


あんたが残した箱のタバコ、未だに封を切れないんだ
サンジがくれた、最後のプレゼント……


「女にタバコ渡すとか、ホントあり得ないしー……ねぇ、サンジ……」


あんたが旅する海に、オール・ブルーはあったの?
吹き出すタバコの煙を見送って、瞳を閉じて波音に耳を傾ける
風に一撫でされた後、カルネとパティの叫び声を聞いて、小さく笑って店に戻った


「「大変だーー」」
「うっさいよー極道コンビ、いらっしゃいま………サン、ジ?」
「ここに美人副料理長が居るって聞いたんだが……で間違いないよな?」
「……グスッ……随分と、手配書よりも良い男になってんね」
「あんなクソ手配書あてになるかよ」
「クスッ……いらっしゃいませ、麦わら御一行様、バラティエ副料理長“白足の”が全てのフルコースをご用意させて頂きます」


あぁ神様、今日ばっかりは感謝します
きっと明日にはもう居ないだろうけど、彼に会えて幸せです










(南向きに吹き渡る風が)
(アタシのタバコの煙を乗せて)
(あんたを待つアタシの代わりに)
(あんたの連れて来てくれた)




end.
 

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