dream

□真夜中の電話
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カチリ、


時計の針が12時をさす。
開け放たれた窓から暗い部屋の中に月の光が差し込んだ。
ベットに横たわって、目を閉じる。


プルルルル、プルルルル、


ベット際の机の上、電々虫が鳴いている。

電気はつけずに、ベットに腰掛けて受話器を耳にあてる。
ギッ、とベットのきしむ音。
床についた足の裏が、冷たい。


「もしもし、」


「俺だ」


「こんな時間に電話かけてくるのは船長かキャスだけですよ」


「…お前、こんな夜中にキャスケットと電話してるのか」


「ええ、まあ、」


「何の用事で」


「秘密です」



船長にどうやって気持ちを伝えるか相談してたんですよ、なんて、(言えない)


心の中でため息をついたら、なんだか胸がいたかった。


「船長命令だ、言え」


「…上陸した島で何した〜、とかですよ」


私がそう言うと、船長はクク、と喉をならして笑った。
耳元に直接響くその声に、なんだか恥ずかしくなる。
カチリ、とまた音がして、見ると、月の光が暗い部屋の時計の針に反射していた。



「ところでどうしたんですか?こんな時間に」


「あァ、別にたいした用事はないな、」


「…そうですか、」



ベットの上に膝立ちになって、窓の外を見る。
夜の天幕、散らばる星は近いところで光っていた。


たぷん、たぷん、と波が船にあたる音がする。


海王類がとおくで吠えて、夜の静寂が震えた。(可哀相に、)(お前は海から逃げられないのよ、)



「お前、今何してるんだ」


「なんにもしてませんよ」


「そうか、」


「…もうすぐ次の島に上陸ですね」


「あァ、」


「…」

「…」



どうして電話してきたんだろう、嬉しいけど、気詰まりな沈黙。

なんだか、ぴりぴりした空気が、受話器の向こうから伝わってくるようで。



「おい、」


「なんですか?」


「…」


「…船長?」


「上陸したら、」


「はい、」


「上陸したら、買い物でも行くか、」


「え、」


「…いや、なんでもない。忘れろ」


「私、船長のこと好きです」



なんにも考えずに言葉が、口をついて出た。
あ、と思ったけど、もう言ってしまった。

夜の海は深く暗くて、耳のそばを潮のにおいがする風が通り抜けた。
心臓が耳元で鳴っている。


フフ、と船長が笑って、私は震える手で強く受話器を耳におしあてる。



「それは奇遇だな」


「え?」


「俺も、」


好きだ、お前の事が。
そう囁かれて、心臓がおおきく跳ねる。



「…悪かったな、こんな時間に」


「いえ、」


「もう切るか」


「そう、ですね」


「分かった。あァ、それと、」



カチリ、また時計の針が動く。



「お前、もうキャスケットと夜中に電話すんじゃねェぞ、」



じゃあな、と私の返事を待たずに電話は切れた。


受話器をもどしてベットに横になった。
ギッ、とまたスプリングが軋む。
ドッドッ、と心臓の音がうるさい。



熱い耳に、潮騒。
船長も、部屋で波の音を聞いてるんだろうか、と思ったら、なんだか胸がせつなくなって、布団をあごまで引き上げた。



真夜中の電話



(夢であなたに会えますように、)(目をとじて、)



2010124。生理

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