男のくせに真っ白なうなじと長めの赤い襟足とのコントラストが綺麗だと思う。丸椅子に座りただそこだけを見ていたら無意識のうちに手が伸びていたみたいで「ぐえっ」と蛙が潰れたような声が聞こえた。あたしの手じゃ掴みきれない太い首…たまんね。 「テメェいきなり何すんだよ!」 「ちょっとムラムラしちゃって」 「ムラ…!いつまで掴んでんだ、離せ!」 ぐーすか寝ていたキッドは瞬時に飛び起き、あたしの手を払い除けて吠える。目覚めても数十分はベッドから動けないあたしからすればこの寝起きの良さは羨ましい。 じと目で見てくるキッドは「何の用だよ」とでも言いたそうな顔をしている、と思っていたら全く同じ台詞を吐いた不機嫌そうに覗く犬歯に小さく笑った。いいねその犬歯、噛まれたい。 「3時間目終わっちゃったよ」 「あっそ」 「いつまで保健室に居んの?」 「眠たくなくなるまで」 「じゃああたしもキッドが眠たくなくなるまでここに居るね」 「は?いや帰れよ」 心底嫌そうな顔をしたキッドは華麗にスルーして、誰かさんのうなじみたいに真っ白なベッドの中にするりと入り込む。勿論頭を押さえられたり蹴られたりして追い出されそうになるけど頑なに阻止。両手を掴まれ膝で距離を取られながらギリギリと目前の攻防戦。いや、どんだけ嫌われてんだよあたし。 「おっ前なあ…!一緒のベッドとかバカか!ちょっとは考えろ!」 「めちゃくちゃ考えてるよ。キッドとあんなことやこんごふっ!」 「この色魔」 「そんなこと初めて言われた…!」 「何で嬉しそうなんだよキショイ」 「もういいじゃん、眠いんでしょ?一緒に寝ようよ」 「おちおち寝てられるかよ」 「襲ったりしないから大丈夫、自信無いけど」 「ねェのかよ」 あたしの言い出したら聞かない性格を熟知しているようで、これ以上何を言っても無駄だと悟ったらしいキッドはわざとらしく溜め息を吐いてぐるりと背を向けた。待ってましたとばかりに飛びつけば肘鉄が鳩尾に入るけど怯むことはしない。 硬い筋肉に沿って指を這わせたらくすぐったかったのか、あの鋭い犬歯で噛まれてしまった。その情景が見れないなんて勿体なさすぎる。ゾクッと背筋に走った何かが心地好くて真っ白なうなじに下腹部が熱くなる。 「これは愛じゃなくて恋だね」 「意味分かんねェよ」 薬品の匂いよりも強いキッドの男くささで肺を満たす。あんま調子乗んな と勢いのいい後頭部の頭痛を頂き軽く意識が飛んだ。笑ってるくせに。肩甲骨が震えてるからバレてるよ。 ここらへんで所詮男のキッドは我慢の限界がきて……とかいう展開を期待していたのに規則的な寝息が聞こえてきてまた意識が飛びそうになった。そこは襲ってこいよ男として。 誘われるようにうなじに噛みつけば狸寝入りをしていたらしい赤いきつね、ではなくたぬきに下唇を噛まれたから大いに笑ってやったけど。 下心と青春 (知ってる?愛は真心、恋は下心で出来てるんだって) |