dream

□お行儀の良いキスなのね
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「キラーを恋人に出来たら幸せになりそう」

「……よくもまあ俺の前でそんな口が利けたもんだ」


人の部屋の机に足を掛けて椅子に座る彼は、私の恋人。話題に上がっているキラーではなく、この船の船長、キッド。隣の椅子に座って、右の小指にはまっている昔キッドに貰った指輪を弄りながら沈黙を破った私を、不機嫌に睨み付ける。


「だって、キラーって紳士な所が多いじゃない」

「そうか?」

「そう、誰かさんと違ってね」


また不機嫌に黙り込む彼。楽しそうに笑う私が気に入らないみたい。舌打ちが聞こえた。同時にアルコールと葡萄の甘い香り。ああ、また勝手に私のワインを開けたのね。


「キラーみたいに紳士な人、素敵よね」

「なら俺じゃなくてキラーの所に行けよ」

「嫌よ。私が好きなのはキッドだもの」


また舌打ちが聞こえたけど、たぶん今のは照れ隠し。それよりも、瓶のままで飲むのは行儀が悪いと思うわ。視線を指輪から、少し大きめのワインラックに移す。そこには、ここ何日かで半分程になってしまった数種類のワイン。その横の小さな食器棚には、グラスがふたつだけ。席を立って、片方のグラスを取る。


「とりあえず紳士は、断りを入れずにワインを開けたりしないわね」


持ってきたグラスを机の上にある足の横に置く。キッドは一瞥すらせずに、また瓶に口を付ける。そのワイン、売ってる島が限定されていて、なかなか手に入らないから少し楽しみにしてたのに。


「お前、サドが好きとか言ってたじゃねぇか」

「ちょっと、語弊があるわよ」


会話が噛み合ってないような気がするの、私だけかしら。確かにそんなような事を言った覚えはあるけど、それは確か、マゾに付き纏われるならサドに振り回された方がマシ。とかそんな話じゃなかったかしら。


「でもサドよりは紳士な方が好きかもしれない」

「……お前、少し黙ってろ」

「なによ、質問してきたのはそっちじゃない」

「黙れ」


言葉とは裏腹に、彼は瓶を持っていない方の手で、私を壊れ物を扱うように優しく引き寄せると、ゆっくりと唇を合わせた。仄かに香ったワインの様に上品な、彼のらしくない行動に思わず呟くと、彼はバツが悪そうな顔をした。やはりどんなに紳士な男より、私は彼が好きだ。






(紳士な奴が好きなんだろ?)
(恋人は少し意地悪なくらいが丁度良いわ)

 

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