dream

□武器よさらば
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「・・・よう。」

駐屯所近くの行きつけのバーで声をかけられた。
もはや振り返らなくてもわかる。2週間ほど前から毎日やってくるこの男の声だ。
よいっ、と当たり前の様に隣に腰をかける。

「あら、奇遇ね。」
「あっさりしてるねい。」
これは毎度の挨拶。この言葉を皮切りに私たちは話し始めるのだ。

「なぁ、いい加減、俺の船に来いよい。」
・・・これも毎度のこと。
私は静かにナイフを構えた。さて、今日はどんな言葉とともに投げつけようか。

「・・・私の背負ってる文字、読めないの?」
私の背中には”正義”の二文字。そう、私は海軍。背中に重い重い枷を背負っている。

彼は私の背中に手をまわして、
「この文字なら読めるよい。せ い ぎ だろい?」
「・・・そういうこと言ってるんじゃないんだけど。」
「へぇ?」
薄らと笑う横顔。暗いバーのなかで見えたその顔に”色っぽい”なんて思ってしまうあたり、私も随分落ちかけているらしい。駄目よ、私は海軍なんだから。
そういえば、私の前の少将ドレークは海賊になったんだっけ。ドレークもこういう男に惹かれたのかな。あ、でも彼は船長だっけ・・・

「なに、考えてるんだい?」
「・・・別に。」
そっけなく答えれば、彼は苦笑いで「そうかい。」と言った。


「なぁ、知ってるかよい」
「何を」
「本当に背負ってるものは、見えねぇもんだよい。」
「・・・」
「お前が背中にいくら”正義”だなんだって書いてても、俺にはお前が正義を背負っている様には見えねぇ。」
「あー・・・」

それはそうか、な?
実際、目の前・・・というか真横に海賊がいて、無防備に私の肩を抱いているのに、私はこいつを捕える気になんてならないんだから。ていうか、いつの間に肩に・・・。


「だから、細けぇことは気にすんなよい。」
そう言ってへらっと笑う。見てなさそうで、私のこと見抜いてるんだな・・・そういうとこも・・・ああ、くそ。

「私は、あなたみたいな海賊、嫌いよ。」
気力で投げつけたナイフは、確実に彼に突き刺さったはず。さぁ、もう痛むでしょう心臓(ソコ)が。

「・・・俺は、諦めが悪いんだよい。」
「知ってる。」
会うたびに毒を吐いて、傷つけて、追い返していた。でも彼は毎日私に会いに来た。


「だが・・・、そろそろ堪えるよい。」
「あなたも人並みに傷つくのね。見かけによらず。」
「・・・効くよい。」
「ウソつけ。不死鳥のくせに。」
「不死鳥でも心の傷までは癒せねぇよい。」

ふぅー、と息を吐いてラム酒に口をつける。
心の傷・・・ね。私がなんで躊躇っているかは見抜いたくせに、私のキモチはわからないのか。ま、そういう鈍いとこも・・・ああ、・・・なんかもう、いいかな。

「ねぇ」
「あ?」
「もう一回、誘ってよ」
「・・・は?」
いきなりの私のお願いにキョトンとする彼。あ、なんだかその顔かわいい。

「だから、誘ってってば。」
「今まで何度も・・・」
「誘われないと、OKって言えないんだけど。」
「!?・・・それって、」
驚きから一転、ぱぁっと明るくなる表情。なんだよその顔。こっちまで照れるじゃん。

「・・・早く、」
と、俯きながら小声で催促した。可愛くないなぁ私。
じっと返事を待つ。すると、一呼吸あいて、



「俺と一緒になってくれよい。」



何気に台詞が変わっている。まぁ、そういうちゃっかりしたとこも好きだよ、畜生め。

もう投げる必要のないナイフと、羽織っていた枷を脱ぎ捨てて


「よろしくお願いします。」


と深々とお辞儀をすれば、
少将海賊堕ちの歴史は繰り返す。








武器よさらば

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