dream
□もう少しだけ
1ページ/1ページ
静寂が包む海から見た空は、黒というよりもどこか青っぽくみえる。
元来そうだったのか、月の明るさがそう見せているのかはわからないけど、小さくみえる星たちをいくつも貼付けて広がる濃紺はどこか儚げに、そうにみえた。
月明かりは、小さな窓から微かに光りを部屋に運んだ。
おかげでわたしの視界にはものがくっきりと浮かび上がっている。
部屋に配置された家具も、ベッドで眠る彼も、すべてはっきりと見ることが出来る。
そのことが、現実を語っているようで少しだけ寂しく思えた。
いっそのこと、真っ暗闇だったらこんな思いしなかったのに。
いっそのこと、カーテンを閉めてしまえばこんなの見なくてもすんだのに。
ふつふつと、空に佇む月のように、わたしの黒い闇のような感情が沸き上がるのを感じた。
なるべく、出来るだけ足音を立てないようにわたしはベッドの傍らに立ち、じっと見つめる。
この人がわたしだけを見てくれていればいいとかそんなことは、端から期待していないけどせめて、せめてわたしが彼を見ることくらい許されるでしょう?
ベッドの周りに散乱した洋服。
破り捨てられたコンドームの袋。
ナイトスタンドに置かれたクレンジングのボトル。
全部全部知らないフリをするから、せめて、もう少しだけ。
「どうした? 眠れねぇのか」
少しだけ掠れた声が静かだった部屋に響いた。
小さな声だったのにこんなによく聞こえるということは、それだけわたしが神経を研ぎ澄ませていたからだ。
「……なんだか眠れなくって」
「そうか。 ほら、来いよ」
シーツの中から伸びてきた腕がわたしの手首を掴むと、引き寄せた。
暖かなシーツの中で抱きすくめられてしまえば、嘘みたいに満足してしまうわたしの心。
「くくっ、なんだ。どうしたんだ?」
「何が?」
「わからねぇのか? お前今"最高に嬉しい"つー顔してるぞ」
まだ眠たそうな目を向けたまま、ニイと口の端を上げて笑った彼にドキリと胸が音を立てた。
「ああ。そうか」
ベッドの中で背後から抱きしめられ、腰を抱くようにして距離が縮り、鼻先に彼の吐息が触れる。
ゾクリと全身の毛が粟立つ。それでも反らせないのは、わたしが彼を求めているからで。
「――おれに会いたかったのか」
クツリ、そう笑いをこぼすと彼はわたしの口唇に触れるだけのキスを落とした。
この人がわたしだけを見てくれていればいいとかそんなことは、端から期待していないけどせめて、せめてわたしが彼を見ることくらい許されるでしょう?
「心配するな。 おれについて来い」
「……心配、してないよ」
「くくっ、そうかよ」
「ええ。……だってわたし、ローの、婚約者だから…」
「――そうだな」
す、と細められた瞳としばらく見つめ合い、そのあとフイッと反らした。
「ロー、……愛してる」
「……ああ、愛してる」
もう少しだけ
(触れてもいいですか?)
(側にいてもいいですか?)
(愛してもいいですか?)