SSS

□足元には気をつけて
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教室でいつもの様にミヨとカレンの三人でお弁当を食べて雑談をしていると、カーテンが大きく波打ってひんやりと風を頬に運んでくる。

窓に視線を移すと真っ黒な雲がどんどん空を覆い、雨を降らせてきた。

何人かが窓を閉める為に立ち上がる。
私も立ち上がって窓に近寄った。

容赦なく顔に雨が降り注ぐ。

窓を閉めて振り返ると、カレンが唇を尖らせた。
「雨かー。ゆーつよね」

「今日は雨が降るって天気予報でも言ってた」
ミヨがお弁当箱を袋にしまいながらつぶやく。

「5時間目の体育は体育館になりそうね」
椅子に座りなおすと、ミヨがため息をつく。
「バレーかバスケになりそう。イヤだな」
「なんでよー。持久走よりはいいじゃん」
「持久走のほうがマシ」

椅子の背にもたれかかりながら私も呟く。

「そうねー。私もどっちも私苦手だもんなー」
「バンビもミヨもそうゆうこと言わないの」
不満そうなカレンを見ながらミヨと私は笑った。



*****




休み時間の終了前にウチのクラスの体育の授業が体育館で行われると放送が流れ、体操着を持って更衣室に移動することになった。

結構雨の勢いが強かった様で、階段は雨に濡れてグシャグシャに濡れている。

「上履きが汚れるー」
なんて言いながら歩いていると、下からコウが上がってくるのが見えた。

「あれ?コウ、次の体育は体育館だよ」
「わーってるって。昼休みに外に出てたからジャージ取りに行くんだよ」
「また学校抜け出してたの?」
「ルカがラーメン食いてぇって言うから仕方なくだ」
「もう。氷室先生に見つかったらどうするのよ」
「そん時は逃げる」
そう言い残してコウは階段を上がり始める。

「バンビー!早く行こうよ!」
先に歩いてたカレンの声に振り返った瞬間、階段を駆け上がってきた誰かと肩がぶつかった。

「あ!」
声が出た瞬間に私の足は階段から滑り、残り4段を踏み外した。

ドーン!と大きな音と共に私は盛大なしりもちをついていた。
「イタタ・・」

「バンビ!」
カレンとミヨが駆け寄る。
「大丈夫?」
階段が少なかったものの、しりもちをついた格好が恥ずかしくて「大丈夫」と言いながら慌てて立ち上がると腰に激痛が走った。

思ったより激しく腰を打った様だ。

変な体制なんだろうな・・・と思いながらも歩き出そうとする。

ズキン!と痛みを感じて立ち止まった。
「バンビ、本当に大丈夫?保健室行こうよ」
「先生に授業を休むって言っておくから」
痛みより恥ずかしさに両手を振って答える。
「大丈夫。大丈夫。さ、行こう」

頭上から「大丈夫か?ごめんなー。」って声が聞こえて、上を見上げて手を振りながら「大丈夫だよー」って答えた私の体がふわっと持ち上げられた。

ビックリして横に振り向くと、コウの顔が見えた。
「ちょ・・・ちょっと何してるの」
「馬鹿。痛ェんだろ?保健室行くぞ」
「いや。あの・・大丈夫だから降ろして」
恥ずかしくて制止しようとする私の声を無視してコウは歩き出す。

周囲から下賎な掛け声や口笛が聞こえて、私は益々恥ずかしくなって声を荒立てた。
「コウ!大丈夫だってば!降ろしてよ!」

そんな私を見てコウは振り返り、

「うるせぇ!」
と大きな声で怒鳴った。

しーんとなる廊下を振り返りズンズン進んで行くコウに私は黙って運ばれるしか出来なかった。




* ****




保健室に着くとコウは私を椅子の上に座らせて無言で出て行った。

慌てた様子の保険医の先生に階段で転んだと言うと、ベッドまで支えて連れて行ってくれた。

カーテンで隠したベッドの上で腰を見せると、先生は優しく触りながら診察をしてくれた。
「骨は折れてないみたいだけど、これは腫れてくるわよ。とりあえず湿布して様子をみましょうか。痛み止めを飲んでも効かないみたいだったら親御さんに連絡して病院に行きましょう」
そう言って、痛み止めと湿布を持ってきてくれた。

仰向けで寝転がる事も出来ずにうつ伏せでベッドに横たわる。

恥ずかしくて穴があったら入りたい。


あ・・。

コウにお礼言ってない・・私・・。

周囲から茶化されて恥ずかしかったのはコウもだろうに。
自分の事しか考えてなくて怒鳴って申し訳ないことをしてしまった。

自己嫌悪に苛まれて枕に顔を埋める。


・・酷いことしちゃったな。




カーテン越しから先生が声をかけてきた。
「担任の先生には伝えておくから休んでて。私はちょっと出てくるから入り口の鍵はかけておくからね」

ドアが開く音がして、閉じた後に鍵のかかる音。

その音に安心して私は目を閉じた。
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