夢を見ていた。

□棚ぼたな恋
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何であいつが屋上にいるのか。


何であいつは今にも泣き出しそうな顔で空を見上げているのか。


俺にとってはもうあいつの存在自体が不可解で、小さく舌打ちをした。


とにもかくにも、あいつには此処を退いてもらわなくてはならない。


まぁ此処は学園の屋上なわけだから俺の私有地ではないんだけど、此処が絶対不可侵の領域であることは大半の生徒が知っているはずだ。


何故ならば、俺がいるから。


なのにこんな堂々と此処に踏み込んでくるなんてあいつはただの馬鹿なんだろうか?


いや、あいつは学園始まって以来の秀才だったはずだ。


…まぁいい、とにかくあいつには出てってもらわなくちゃならない。


「えーと、堺(サカイ)…だよな?何で此処に来ちまったのか知らねぇけど、屋上が絶対不可侵だってことをまさか知らないわけじゃねぇよな?」


俺が声を発したことで漸く俺の存在に気付いたらしいあいつはゆっくりこっちを振り返って微笑んだ後、こう口にした。


「待ってましたよ、友村(トモムラ)君。」


さすがこの学園で絶大な人気を誇ってるだけあって、すげぇ整った顔で微笑み掛けてきたあいつはまじで綺麗だった。


「待ってたって何だよ。まさか此処がどういう場所だか知らないわけじゃねぇよな?」


「ええ、勿論存じておりますよ。ただ、今回はどうしてもお話したいことがありまして、こうして此処にやって来たんです。」


「…話したいこと?」


「はい、僕友村君のことが好きなんです。」


「随分唐突だな。…で?それは恋愛感情の好き、か?」


「はい。」


「わりぃけど、俺には恋人がいるから堺の気持ちに応えることはできない。」


「はい、全て承知の上です。ただこうしてたまにでいいので屋上で話したりしてもらえると嬉しいです。」


「わりぃな。そんな誤解を招くようなことはしたくねぇ。」


「……友村君の恋人って、生徒会副会長の篠原(シノハラ)先輩ですよね?」


「あぁ、そうだけど。」


「確か、生徒会会長と最近親密な仲だって噂になってますよね?」


「……。」


「友村君という恋人がいるのに、会長にまで手を出すなんて篠原先輩ってなかなかやり手なんですね。」


「うるせぇ、何も知らないくせに唯(ユイ)のこと悪く言ったりするんじゃねぇ!」


生徒会副会長という役職に就いている篠原唯は、俺の愛して止まない恋人だ。


確かに最近唯は会長と親密な仲になっているという噂をよく耳にするけど、俺は唯がそんな人間じゃないってことわかってるしそんな根も葉も無い噂なんか全く信じてない。


「テメェ、これ以上唯のこと悪く言ったりしたらぶっ殺すからな。」


俺が睨み付けながら怒りを孕んだ声でそう告げると、堺は一瞬目を瞬かせた後悲痛な表情で謝罪してきた。


「大変失礼しました。とても不躾なことを言ってしまいました。申し訳ございません。」


「…いや、わかってもらえればいい。」


「ありがとうございます。…ですが、僕は諦めませんよ。毎日のように屋上通い詰めますから。」


「はぁ?お前俺の話聞いてたか?」


「ええ、ちゃんと聞いてましたよ。ですがそれは友村君の都合でしょう?僕には僕なりの都合があるんですよ。」


「はぁ?ふざけんなよ。意味わかんねぇし。」


「何と言われようと僕の意思は変わりません。」


「おい、いい加減にしろよ。ぶん殴るぞ。」


「友村君になら殴られてもいいです。」


脅しのつもりで言った台詞にそんな風に返されてしまって、何だか俺は敗北した気分になった。


ダメだ、こいつには何を言ったところで効かねぇ気がする。


「……わかった、これからたまにこうして屋上で話してやるだけでお前は満足なんだな?」


「え、あ…はい!」


「仕方ねぇから、お前の言う通りにしてやるよ。」


「え、本当ですか?」


「毎日此処に来られるよりはマシだからな。たまにならこうして話してやってもいいぜ。」


「あ、ありがとうございます!」


そう言って嬉しそうに笑う堺のことを一瞬可愛いとか思ってしまった自分を殴り付けたい気分になりつつ、俺は小さく頷いてから屋上の扉へと向かった。


「僕、頑張りますから。友村君に好きになってもらえるように努力しますから!」


扉を閉める直前に聞こえてきた堺からの宣戦布告に俺は顔を歪めた。


誰がお前なんかに惚れるかっつーの。
寝言は寝て言え。


ったく、胸糞悪いぜ。





―――今思えば、全てはこの時始まったんだ。


あいつとの出会いによって、俺の運命は大きく変わり始めたのだから。



 
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