Short stories
□Liar's heart
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私は涙を流していた。
ポロポロと溢れ出る涙を拭いもせず、ただ目の前の墓を見つめる。
「可哀想にねぇ…」
「お気の毒に…」
参列者の群れからそんな声が聞こえる。
それは、この墓の下に眠る主人への追悼の言葉か。
それとも、敬愛する主人と生きるための仕事を同時に無くした使用人…私への気遣いか。
「大丈夫かい君?」
葬儀の終わった後、1人でぽつんと墓の前に立っていた私に誰かが声をかけた。
「…ええ」
返事をしながら振り向くと、真っ黒な服装に映える銀髪が見えた。
「あ…葬儀屋さん」
主人を埋葬した男をそう呼ぶと、葬儀屋は不気味にニヤリと笑った。
「彼も運が悪かったねぇ。どこぞの暗殺者に撃ち殺されちゃうなんて」
「…貴族の主人に仕える上では、こういうこともあるかもしれないって覚悟してたはずなのに…」
そう言うと、葬儀屋は私の背中をぽんぽんと擦ってくれた。
「人の命っていうのは結構儚いものさ。これも彼の運命だよ」
「…どうしてそんなことが分かるんですか」
「仕事柄ね」
ヒッヒッヒッと笑う葬儀屋に、私は聞いてみた。
「葬儀屋さんは、死んだ人をたくさん見ているんですよね…」
「仕事だからねぇ」
「死体を見るとき、何を考えているんですか…?」
「ん〜この傷は綺麗だねぇ…とか?」
その言葉に、私は葬儀屋を軽く睨んだ。
「…不謹慎ですね」
冷たく言い放つ。
その時、葬儀屋の纏う空気が変わった。
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