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□次に目を開けたその時には
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──あの人は、手を伸ばせば届くはずだった。
そんな距離に居たのに。
次に目を開けたその時には
「君は後悔しているのかい?離れてしまう彼に何も言えなかったことを」
長い銀髪の男は、私を見てそう聞いてきた。
「…そうかも、しれない」
この男は、自分を死神だと言った。
眼鏡の奥の黄緑色に光っている瞳は、何もかもを見通しているようで。
「せめて気持ちを伝えるくらいはすれば良かったな、とは思ってる」
「………」
「ありきたりな答えだとか思ってるでしょ」
「そうだね」
結構ずばっと言っちゃうんだ、この死神。
でも、そういうのは嫌いじゃない。
「取り残される側の方がずっとずっと辛いって知ってる?」
「人間の半分くらいはそう言うね」
「…だったら、どうして連れていっちゃうの」
「仕事だからさ」
「仕事だからって何でもやるの?貴方は感情が欠如したロボット?」
「そうなれたら良いなとは思うよ。この仕事は感情が無い方がやりやすい」
無表情で淡々と答える死神は、もうすでに感情が無いみたいだった。
…ならこの際、言いたいことは言ってしまおう。
「地獄に連れていく気なら承知しないわよ。逝くなら天国」
「それ無理。小生が決めることじゃない」
「その大きな鎌で斬るの?痛くない?」
「小生は斬られたこと無いから」
「魂だけになった後、自我は残るの?消えるの?」
「死んだら分かるんじゃない?」
「…じゃあ」
多分無理だろうな、と思いながら私は聞いた。
「最後に、もう1度あの人と話せない?」
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