神を肯定できないしにがみの話

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引き留められたシャロンは、ようやく伏せていた顔を上げた。

何かに耐えるようにぎゅっと唇を結び、分かりやすいくらい俺に目を合わせないようにしている。

けれど、今この腕を放すわけにはいかない。

絶対に放さない。

「俺、前に言ったよな?大丈夫って言ってれば心配かけないなんて思うなって。大変なことがあるなら早く言えって」

シャロンがぴくっと肩を揺らした。

「お前は色んなことを我慢してる。抱え込んでる。1人で悩んでる。なのに何も教えてくれない。頼れって言ってるのにいつも隠す」

こいつは心配する方の辛さを知らない。

多分、知ろうともしていない。

「そんなお前をいつも横で見てる俺の気持ち、考えたことある?」

分からないのがもどかしい。
支えになれない不安が募る。

好きな相手だから、尚更。

「理由が話せないなら、悲しいとか泣きたいとかでもいいんだ。何も言ってくれないのが1番きつい」

そう言ったら、黙っていたシャロンがか細い声で短く答えた。

「…言わなくても平気だから言わないだけ…」

「だったらなんでそんな辛そうな顔してるんだよ」

「………」

再びその口が閉ざされる。
だんまりを決め込むつもりか?

細い腕を掴んだ手に、更に力を込める。

「そんなあからさまな態度取られて放っておけるわけないだろ。こっち向けよ」

「………」

「…シャロン!」

「…放っておけないならそれこそ離れてよ。その方が気にしないで済むんだから」

抑揚の無い言葉。

喋るのも億劫そうだ。

「離れて納得出来ると思う?このままじゃ気になって合コンにもいけない」

「そんなこと言わないで。ノックスらしくない…」

シャロンの拒絶は冷静だが必死だった。

なんでだよ。
なんでそんなに頑なに拒むんだよ。

「本当に心配なんだよ!俺は、初めてお前を見た時からずっと…!」

そう言いかけた瞬間、シャロンの目がカッと見開かれた。

「同情なんてやめてよ!!そんなのいらない!!」

突然大声を出したシャロンは、俺の手から逃れようと腕を振った。

少し吃驚したが、それでも何とか食い下がる。

「ちょっ…お前…!」

「お願いだからもう構わないで!!」

シャロンが片手で自分の額を押さえ、強く悔やむような声で叫んだ。

「やっぱり…やっぱり最初から関わりなんか持つんじゃなかったッ…!」

一瞬、息が詰まる。

心臓が嫌な音で鳴った。

「(…なんで、悔やまれなきゃならないんだよ)」

自分勝手すぎる。

勝手に抱え込んで勝手に我慢して勝手に拒絶して。

側にいながら何も出来ないことが、どんなに辛いのかも知らないくせに。

「…ッいい加減にしろよ!!」

シャロンの腕を引っ張ると、その身体を柵に押し付ける。

ガシャンッ、と辺りに響く耳障りな音。

「大丈夫とか平気とか下手な言い訳はもう使うな!!俺が信用出来ないなら、いっそそうはっきり言えよ!!」

強い風が、俺達の間を勢いよく吹き抜けた。


───冷たい


そう感じた瞬間、はたと我に返った。

「……悪、い」

そっと腕を放し、顔を伏せる。

シャロンは微動だにしなかった。

「……っ」

違う。

こんなことを言うつもりじゃなかった。

シャロンにも理由があるのは分かってる。

きっと仕方のないことなんだ。

なのに逆上して、怒鳴って、バカか俺は…。

「………」

泣かせたかと思った。

しかし、違った。

顔を上げた時、シャロンはむしろ冷静な目で、俺をじっと見つめていた。

「…ノックスも」

「え…」

「ノックスも考えたことあるでしょ。“これ”は異常だって」

シャロンが無表情のまま、眼鏡ごと片目を手で覆った。

「………」

…考えないわけがない。

むしろ疑問に思わない方がおかしい。

けど、今更そんなこと異常だなんて。


………異常?


頭の中に疑問符が浮かぶ。

そうだ。
彼女は最初から“特殊”だったじゃないか。

「(藍色の瞳…)」

正直、薄々感じていた。

圧倒されるような瞳の色。

けれど、それだけじゃない。

やけに劣っている運動神経。

丈夫なはずの死神にしては病弱な身体。

その能力や体質も、俺達死神とは何かがずれている。

違う。

彼女は俺達とは違う。



異形の者───?



「…っ!」

そんなこと気にしてなかったはずなのに。

多分、今まで無意識に否定していたんだと思う。

そうしなければ隔たりを作ってしまうから。

けれど今、彼女との距離が遠くなっていく感覚がどうしても消えない。

「異常なんだよ。単純に」

「え…?」

「もう見てられない」

そう言い残して去っていく後ろ姿を、追いかけることが出来なかった。





(何をしているんだ、俺は)

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