Red & Beautiful memory
□\.Visitor
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日が沈み、夜の帳が下り始めた頃。
ファントムハイヴ家の書斎に、シエル、セバスチャン、カナタの3人の姿があった。
「………はぁ」
もう何度目だろうか。
広い書斎に、シエルの重々しいため息が響いた。
「坊ちゃん、そんなことを繰り返しても何も解決しませんよ」
「分かっている!」
セバスチャンに言及され、シエルは普段より荒い返事を返す。
「……エリザベス様は」
主従の前で、カナタは様子を伺うように控えめに発言した。
「エリザベス様は、何が原因でそうなられてしまったんでしょう…」
「分からない」
シエルは即答した。
何かを睨むような目付きで、顔の前で組んだ手のひらにぎゅっと力を込める。
「先程説明した通りですよ」
セバスチャンが落ち着いた、しかし若干低めの声で言った。
「昨夜、突然エリザベス様の声が出なくなったそうです。パーティーから帰宅した後の出来事だったようで…」
「原因は全くの不明だ」
セバスチャンの説明を、シエルが少々苛立った様子で引き継ぐ。
「医者に見せても声帯に異常は見られない。体調不良だったわけでもなく、ただ“声”というもの自体がそっくり無くなってしまったかのようで、医者も皆首を傾げている…」
「………」
カナタは何も返せなかった。
シエルの声は平静を装ってはいるものの、語尾は消えそうなほど弱々しい。
「(…流石に堪えたかもしれませんね、エリザベス様のあの泣き顔は)」
シエルの様子を窺いながら、セバスチャンは心の内で冷淡に呟いた。
「…坊ちゃん、やっぱりあの男」
「“K”──でしたね」
カナタが名前を口にする前に、セバスチャンが鋭く言った。
「カナタの父親のことを知っていたようですが、カナタ自身は全く覚えが無いんですよね?それに最も謎なのは“上司”の存在ですか」
「…はい」
カナタが静かに頷いた。
シエルの目付きが更に険しくなる。
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