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□データでは予測しえない
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―――ポツ……ポツ    


先程までの晴天は嘘のように
空は鼠色へと変わり、おまけ
に雨まで降り出してきた。頬
に落ちてきた冷たい滴に俺は
一人、苦笑いする     


どこからやってきたのか…こ
んな雲は少なくともこの辺り
にはなかったはず。だが、雨
が降り出したことは紛れもな
い事実。俺の予測が…外れた




『蓮二、気をつけて』   
「ん?何の話だ」     
『雨がね…降るから』   
「雨…?こんなに晴れている
のにか?」        
『うん、そ』       
「それはないな。これから雨
が降る確率は12%だ」   
『……』         



俺の話を無視して無言で差し
出された傘。雨など降るはず
がないと思っていた俺はその
傘を受け取ってきてしまった

最近毎日が憂鬱でテニスの練
習にも身が入らない。雨にで
も濡れてしまいたい気分だっ
た。だから俺の冴えないデー
タなんかよりあゆの予報が
あたればいいのに…なんてこ
とを考えていた。もうここは
濡れて帰ってしまおうか。そ
んな我ながら馬鹿な案を採用
して真っ直ぐ家へと帰ろうと
したときだった      

ふと、淡い色の傘が目に入っ
た。なんとなく、あゆは俺
を待っていてくれてる気がし
て踵を返す。この、俺には小
さすぎる傘の持ち主はさて…
まだ学校にいるのだろうか。





学校に戻ると、やはりあゆ
は俺を待っていた。だが一つ
予想外だったのは雨に濡れて
びしょびしょになっていたこ
と。なぜかあゆは学校をで
て校門の前に立っていた  

俺が声をかけると俯いていた
顔をあげ髪から水滴を滴らせ
ながら、キレイに笑顔を咲か
せた。嬉しそうに"ほらね"と
言って笑う        


その笑みにらしくもなく、俺
はお前がこの雨を降らせたん
じゃないかと思ってしまった
お前が雨が降ると予報したか
ら………         


俺は言葉が返せなくて、取り
あえず傘をあゆに持たせて
俺はテニスバッグからタオル
を二枚取り出しあゆの髪を
拭いてやった。嫌がる素振り
も見せず、素直に俺に任せて
くれたあゆに嬉しくなった
が…腕を少し乱暴に動かしそ
れを隠した        




「さぁ、もう帰ろう。風邪を
ひくぞ」         




あゆから傘を取り上げさし
てやる。あゆのはじけた笑
顔に、俺は雨もいいものだと
思えた          







□ □ □




『蓮二』         
「……あゆか」     
『これ』         
「傘…?今は雨など降っては
いないが?………まさかまた
突然雨が降り出すのか?」 



今日も気怠くなるほど暑い夏
の日の放課後。これから部活
へ参加しようと靴を引っ掛け
たときだった       

不意に聞こえた俺を呼ぶ声に
、振り向いて見るが……誰も
いない。ゆっくりと視線を下
げたそこに…お前はいた  


俺の以前と同じか?という問
いに静かに首を振ったあゆ

ならば、何故……?    



「てるてる坊主も作ったの」
『……?』        


ますます意味が分からなくな
る。悲しそうな顔や、嬉しそ
うな顔など様々な顔をしたて
るてる坊主を数個俺に手渡し
てきたあゆ。やはりあゆ
にはデータは通用しない……
いや、とる意味もないだろう
と思った         

こいつの思考を理解するのは
おそらく…一生かかっても無
理だと思う        

だからこそ、愛しいと感じる
のだろうと俺は一人納得した



『蓮二のとこだけ、いっつも
雨が降ってる。早く止むとい
いね』          
「?」
『私ね、蓮二の周りはずっと
晴れがいいの…』     













"蓮二が、好きだから"   












俺の腕の中で目をパチクリさ
せているあゆは、本当に小
さい。          

だが、この小さな存在こそが
………俺がずっと焦がれてい
たもの          







ずっと俺の側で…     



輝いていて        




データでは予測しえない
(二人の恋模様)





俺達の気持ちが通じた瞬間を
あゆの作ったてるてる坊主
だけが見ていた      





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