命が輝くとき


□すいこまれたこころ
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「あゆ、おはよう」


意識がはっきりしたあゆ

ぱっちりと開いた目は大きく
あんなに皺がよっていた眉間も
今は消えて穏やかな表情になっていた


『…………おは、よ』


これがあゆの第一声だったね

今でもはっきりと覚えてる

本当に嬉しくて俺は思わず
君の手を握った


誰もいなくなった病室
俺とあゆの声だけが響いて
とても心地よかった


「俺、幸村精市っていうんだ
13歳だよ。君は?」


『……椎名…あゆ。13さい』


「え?俺と同じ?
そっかそっか、嬉しいな」


『………………』



でもこの時感じた違和感も覚えてる
あゆはあんなにきれいに笑うのに
無表情で俺のことを見ていたから

会話がつまらないとか
俺に人見知りしているという
訳ではなさそうで

なんだか、
笑い方を忘れてしまったような
そんな感じだった


何故ならあゆは無表情でも
ニコニコと笑ってる俺の顔を
じっと見つめていたから


だから俺はこのとき
俺は笑っていよう と決めたんだ


「ねぇ、あゆ
屋上で会った日のこと覚えてる?」


コクり
あゆが小さく頷いた


「本当に?嬉しいな
俺その時からずっと君に
会いたかったんだ」


『……わたし、に?』


あゆが少し驚いた表情をした

その表情が可笑しくて思わず
クスリと笑みがこぼれる


「そう、あゆに」


俺の言葉に本当に
ほんの少しだったけど
俺にはあゆが嬉しそうな表情
をしたように見えたから


俺も、笑顔になれた


あゆの小さな表情の変化が
本当に嬉しかったんだ




「また来るよ、あゆ」




この日は確かこの言葉で別れたね

このときはまだ無口で
無表情だったあゆ

そんなの俺には関係なかった


ただ、ただ楽しかったから

この時間が好きだったから












今でもこの時のことを思い出すと
自然と笑っちゃう…


俺の大切な、大切な
思い出の一つだよ




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