命が輝くとき


□この世界に色を
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いつもどおりの朝
嫌になるほど何一つ変わらない


目を開けて一番に目に入る点滴の管も
鼻を霞める消毒液の臭いも
ベッドの隣に常に置いてある薬と水も
寂しそうに立て掛けてある
愛用のラケットも

みんな、いつもどおり
何も変わってはくれない


そんな朝に一つ、ある事件が起きた









「あゆ!………あれ?」


俺がいつものように病室へ行くと
そこにいるはずの人物の姿は
どこにもなく…
加えて、人の気配もなくて


まるで"あゆ"という存在の痕跡さえも
綺麗に消されてしまったような
殺風景な病室に俺は頭が真っ白になった


「……あゆ?…あゆ、どこ?」


声が震えた
自分の声に、さらに
緊張は高まっていく


「あゆっ!!あゆ!!
どこにいったの!?」


悲しくなるほどに片付けられた病室

ずっと来ていたのに…

俺が座っていた椅子も
あゆの名前が書かれた札も
なにもかもなくなっていて


敷いてあったシーツも取り外され
たくさん置いてあった機械も
綺麗に片付けられてしまっていた


「あゆ!!!」


「幸村くん?どうしたの!?」


何度目だっただろうか

俺があゆの名前を
叫ぶ声が聞こえたのか

あゆの担当の
看護師さんが驚いた顔で
扉を開けて立っていた


俺が恐る恐るだけど
あゆの安否を尋ねると…
看護師さんは一瞬驚いた顔をしてから
クスリと笑ってくれた


「あゆちゃんはね
自分の病室に戻ったのよ?
最終点検にきたら幸村くんが
大声で叫んでてびっくりしちゃった」


そしてまたクスリと笑う


俺はそれでもやっぱり
自分の目で確かめたくて
看護師さんに病室の番号を聞いて
あゆのもとへと急いだ


「712……」


エレベーターに乗っている時間
でさえも惜しくて
階段を駆け上がりたいとまで思った

思い通りにならない身体に苛立ちを感じて
自分の足を一発殴ったけど
嫌いな病院服が擦れる音と
鈍い痛みを感じただけだった



ただただ、
君に想い焦がれてたんだ



俺の中で世界は君を通じて回ってた
君を通じてすべてを見てたんだ




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