命が輝くとき


□黙って、俺の心臓
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次の日の朝
俺はまたあゆの
病室へと足を運んだ



「あゆ、おはよう」


『!……せーいち、おはよ…う』


言葉が遅れるのは病気のせいらしい

俺にはそんなの関係なかったけど

あゆの声は綺麗なソプラノで
高いのに、聞いてて不快じゃなかった


「あゆ、昨日は会えなくて
ごめんね?
こっちの病室に移ったこと
俺、知らなくてびっくりしたよ」


『…ごめん、なさい』


「ううん、謝らなくて大丈夫
看護師さんに病室聞いたから
平気だったよ?」


『…きのう、きた?』


「うん。でもあゆが
気持ち良さそうに寝てたから
起こさなかったんだ」


『……これ』


あゆが差し出してきたのは
俺が昨日あゆにむけて書いた
置き手紙だった


柔らかく微笑むあゆに
俺はドキッとしてしまう

少し赤い頬も細められた目も
すべてが愛しかった


『せーいちが、かいたの?』


「うん、そうだけど……?」


ちゃんと俺の名前も書いたはず……

そこまで考えてハッとした


「あゆ、もしかして…
読めなかった……?」


あゆはちょっと笑ってから
コクリとうなずいた


やってしまったと思った
あゆは学校に通ったことがない
漢字なんて読めないはずだ

俺の名前もきっと読めなかった


あゆを傷付けてしまった
そう思って落ち込んだ

あゆに謝ろうと口を開いたとき


『ありがと、う』


あゆは不意にそう呟いた


俺は訳が分からなくて首を傾げる


『おてがみ、なんてはじめて…もらった
だから、うれし…い』


そういいながら手紙を
本当に大事そうに抱き締めて
今までで一番の
笑顔で笑ってくれた


俺が初めてみた、
あゆの笑顔だった

作り笑いじゃない
心から湧き出た笑顔


またドクリと心臓が動いたのを感じた


『ね、よんで?』


真っ白い紙の切れ端に
鉛筆でさらさらと
書き残しただけの手紙


その手紙をあゆは
笑顔のままで俺に差し出した

本当に、大事そうに


「うん、分かった
読むよ?」


[あゆへ

あんまりにも
気持ち良さそうに寝てるから
起こすと悪いし今日は帰るね
また明日来ます

おやすみ

幸村より]


別に特別良いことも書いてない
でも俺が読みおわって
あゆの方を見ると
パァっと目を輝かせながら
俺の手紙を見つめていた


その笑顔を見て俺の心は
ポカポカと暖かくなったんだよ


『ね、せーいちはどうかくの?』


「ん?…精市はね、こうだよ」


『……れんしゅうする!』


そしてまた笑った

以前と比べて
あゆは笑顔が増えた



無表情だったあゆの面影は
もうどこにもなかった




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