命が輝くとき


□伝染しろ、笑顔
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「寝坊しちゃった」


やっと目覚めて時計を見た時には
もう昼の12時を過ぎていた


今日は調子がいい

だからいつもどおり
あゆのところへ行くために
立ち上がろうとしたときだった



『せーいち』


「!」


突然の自分を呼ぶ声に驚いて
ドアの方を見ると
少し緊張した面持ちで
あゆが立っていた


あゆから俺を訪ねてくるのは
初めてのことで…

ただ、それだけなのに急に
俺の心臓の音は煩くなる


『しゃしん、とろ』


「写真……?」


俺は素直に驚いた

病人は写真なんてとりたくないだろう
と勝手に思っていたから


『……だ…め?』


ハッとしてあゆを見ると
不安そうな顔をして立っていたから
急いでOKの返事をすると
あゆは微笑みながら
俺のベッドに近寄ってきた


『…いこ
きょうは、げん…き?』


俺の手を握りながら
心配そうに尋ねるあゆが
どうしようもなく愛しくて
抱き締めたい衝動に駆られたが
なんとか抑えた俺は

あゆの手をそっと、握り返した


「あゆ、ありがとう
大丈夫だよ
…行こう?」


俺の言葉にコクリと頷いたあゆは
ゆっくりと俺の手を引いた









初めて二人並んで歩けた

そのことが嬉しくて嬉しくて
笑みがこぼれるのを抑えられなかった


俺の手を握る手は小さくて
その先に続く腕は細くて

歩幅も最初は合わせるのが
大変だったけれど


そんなことでさえも
俺は愛しかった


140センチ程しかないあゆと
目をあわせるのは大変だったけど
あゆは俺をときどき見上げては
嬉しそうにニコッと笑ってくれたね


俺は君のその笑顔が
見れるだけで幸せだったんだよ











『………………』


あゆが急に立ち止まったので
前に視線を戻すと
物凄い人だかりが見えた


―こんなに入院している人がいるんだ


俺は現実を突き付けられた気がした

また、闇に落ちていく感覚



『せーいち』


「!…………あゆ」



俺が恐怖に飲み込まれそうになった時
あゆは、笑ってくれていた
綺麗に、綺麗に



「………ありがとう、あゆ」



君は俺がどんなに深くて
どんなに暗い闇にいても
一瞬でひっぱりあげてくれたね

君の笑顔が俺を照らしてくれてた


だから俺は、
君の笑顔のきっかけにでも
なれてたらいいなって
ずっと思ってたんだ









「お嬢ちゃん、もっと笑って!!」


写真屋のおじさんはあゆを
笑わせようと思って
一生懸命になっているが
あゆは一向に笑わなかった


このイベントは笑顔を写真におさめて
患者が病気が辛くて
笑えなくなってしまったときに
自分の笑顔を思い出してもらおう
という目的のためらしい


だからあゆが笑わなければ
意味がないのだ


俺はあゆに一か八かの賭けをした


「ねぇあゆ
写真が出来上がったら
二人で病室に飾ろう?」


『?』


「元気がでるよ、きっと」


『……………』


「ね、あゆ」


そういって微笑むと
君の表情もやわらかくなったね


こんな俺の無謀な賭けにあゆは
ちゃんと応えてくれたね


「おじさん、お願いします」


「あ、あぁ…
じゃぁ、とりますよ?」


さん、


俺はそっとあゆの肩を抱いた


にー


「あゆ、笑って?」


いち





……パシャ






「撮りおわったよ
あぁそうだ。お嬢ちゃん、
お嬢ちゃんは笑顔が似合うね」


おじさんさんは幸せそうに笑った



ほら、また笑顔がふえた


あゆ、君が笑うとね
自然と周りにも笑顔が咲くんだよ


俺はそんな君の笑顔が好きなんだ







今でもあのときの写真は
大切にとってあるんだよ


あゆが俺の大好きな笑顔で
かわらずにあの日のままで笑ってる



それなのに俺は
その写真を見るたび
涙を流してしまうんだ



"せーいち、わらって"


そういってくれてる気がするけど
どうしても、笑えない





あゆ、ごめん

こんな俺を許して?




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