ゴミ箱。
□ワニと小鳥
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ワニと小鳥
涙が止まらなかった。
なんてことをしてしまったんだろう。こんなつもりじゃなかったのに。
気が付いてまず始めに、ボクは呆然とした。
ボクは、君を食べてしまった。大好きだった君を、パクリと食べてしまった。
ボクはワニだ。広い沼で数匹の仲間と暮らす、ウロコだらけの動物だ。
どうして君を食べてしまったんだろう。好きなところばかりの君に、もう会えることもない。
沼のほとりでいつまでも動かないボクを心配して、仲間がどうしたんだと話しかけてきた。ボクは仲間に君を食べてしまったことを伝えた。ぼろぼろぼろぼろ、涙が止まらない。
「何言ってるんだよ、腹減ってたなら当たり前のことじゃないか」
「ちがう!当たり前なんかじゃない!」
「だって俺たちはワニなんだぞ?おかしいんじゃないのか、オマエ」
冷たく言い放ち、仲間はヌーの群れを目ざとく見つけ、ボクから離れていった。
水しぶきの音がする。仲間達が狩を行っているのだ。ボクはとてもそれに参加する気になれず、落ち着くまでずっと沼のほとりで体を沈めていた。
狩をしないということは、このサバンナの真ん中では命取りになる。次にヌーの群れが来るのは何ヵ月後になるか、予想なんて誰にもできないから。
ボクは自分を罰するつもりで、ヌーが沼を渡り終えるまでずっとその場を動かなかった。君を食べてしまったあとなのに、食欲なんて湧くはずもない。
でも、ボクは、臆病だ。
自分をイジめてるつもりで、生かしてる。
「ワニさん、ワニさん。どうかしたの?」
甲高い声にはっとして、ボクは目線を上げた。
ボクの頭で首を傾げる、真っ白で小さな体。小鳥だ。
いつも頭の上に止まる小鳥。かわいい声、君の色、ぜんぶぜんぶ、大好きだったのに。
「なんでもないんだよ、小鳥さん」
「じゃあどうして、そんなに悲しそうなの?何かあったんでしょう」
「本当になんでもないんだ。心配させてごめんよ」
小鳥は小さな首をかしげ、軽やかに歌いだした。ボクをなぐさめるように。
泥にまみれてウロコだらけで全てがみにくいボクに、体をゆだねて心を許して。まるで、君みたいな小鳥。
ねぇ、戻ってきてよ。