ゴミ箱。

□すずの兵隊
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 ある、大きなお屋敷の、小さな男の子のお部屋。
 その部屋のテーブルの上には、男の子のお気に入りのおもちゃである、立派なお城の模型がありました。
 お城の中にはたくさんの人形たちが住んでいました。王様、お妃様、王子様、お姫様、大臣、召使、兵隊。
夜になり、部屋の明かりが落とされ、男の子が眠りに就くと、彼らの時が動き出します。
 隣の部屋から漏れて聞こえる蓄音器の音楽に合わせ、お城のホールでは毎夜ダンスパーティーが開かれていました。
 お城を守る兵隊は全員で二十五人。スプーンを溶かして作られた、小さなすずの兵隊たちでした。
 しかし、二十五人の兵隊のうち、一人だけ、足が一本しかない兵隊がいました。途中でスプーンが足りなくなったため、二十五番目に作られた彼は片足になってしまったのです。
 片足の兵隊は毎夜、ダンスホールの見回りをしていました。綺麗な服を着た大勢の人形たちがワルツのステップを踏む中、兵隊の銀色の目はいつもただ一人だけに向けられていました。
 兵隊が密かな想いを寄せているその人形は、城一番の踊り子でした。
 くるくるひらひらと軽やかに舞い、彼女が回る度に彼女のドレスのフリルやリボンもまるで意思を持っているかのようにひらりと舞うのです。セルロイドの白い肌はつやつやとしていて、桃色のくちびるはいつも笑みを浮かべていました。
 ダンスパーティーの最後は決まって彼女が飾ります。優雅なバイオリンの音色が止まり、軽快なカスタネットの音が響きだすと、人形たちは皆、踊り子のためにさっとフロアを空けます。ダンスホールの中心で、彼女は靴音を力強く鳴らしながらフラメンコを踊るのです。
 しなやかな足を高く上げて回る彼女の姿を、片足の兵隊はうっとりと見つめました。


「ぼくと同じ、一本足だ」


 やがてカスタネットの音が止み、それを合図に人形たちは夜が明ける前にと急ぎ足で、それぞれ元の場所へと引き返していくのでした。
 お城の中で眠りにつく人形たちを横目に、片足の兵隊はお城を出て、部屋の隅にあるおもちゃ箱へとよじ登り、積み木の陰にそっと身をひそめました。片足の兵隊は他の二十四人の兵隊たちとは違い、昼間のお城に持ち場がありません。持ち主である男の子が片足の兵隊で遊ぶこともありません。この大きなお屋敷に来た時からずっと、片足の兵隊はおもちゃ箱にしまわれっぱなしだったのです。
 片足の兵隊が狭いおもちゃ箱から出ることができたのは、ダンスパーティーが開かれる真夜中だけでした。
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