ゴミ箱。
□いただきます
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※グロ注意※
いただきます
おはよう。今日も良い天気ね。お布団でも干そうかしら、ねえあなた。
お腹をさすりながら私はベランダの物干し台に立った。真っ青な空は、住宅街に近づくにつれて薄汚れた色になっていく。遠い砂漠の砂と、花粉の色。
あら、いやだわ。これじゃあ逆に、お布団が汚れちゃう。でも仕方がないわね。
シーツを干し終わり、私は再びお腹をさすった。
今日も私だけのあなたに、わたしは毎日語りかける。
今日のお昼は何がいいかしら。そうだわ、シチューにしましょう。ブロッコリーとキャベツがたっぷり入ったクリームシチュー。新聞に広告が入ってたんだけど、今日、スーパーでお野菜がとっても安いのよ。もうすっかり春ね。
リビングのソファから立ち上がり、私は財布とバッグを持って玄関に向かった。
ちょっと買いすぎちゃったかしら。早く帰りましょう、ねえあなた。
お腹をさすって、私は手提げ袋を持ち直す。どくどくと、鼓動が少し早まっていた。心臓が私の頭や手や足の先、隅々まで血液を送る。そう、これはあなたの血。他の誰のものでもない、私の、あなたの血。
玄関で靴を脱ぎ、まっすぐにキッチンへと向かった。テーブルに荷物を置いて椅子に腰かけ、私は一息ついた。
いやね、運動不足かしら。ねえあなた、どう思う?
お腹をさすっても返事は無い。私のお腹の中でどろどろになり、渦巻いているあなた。こうしてじっと待っていれば、いつか何かが生まれ出てきてくれるのかしら。渦巻くどろどろがだんだん固まっていって、ここから出てくるの。ねえあなた、どう思う?生まれ出てきたそれを、私はきっとまた私のものにするのかしら。
そうだわ。卵も買ってきたんだった。それだけしまわなくちゃね、ねえあなた。
私は椅子から立ち上がって、顔を上げた。視線の先には冷蔵庫がある。角が強調された、少し古い冷蔵庫だ。取っ手に手をかけて、私はお腹をさすった。
今日でやっと全部よ、ねえあなた。あなたの全部がやっと私になるの。冷蔵庫の中も、やっと片付くわね。
いいでしょう、ねえあなた。
end.
song by 倉橋ヨエコ『いただきます』