鳴門短
□不器用な言葉
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大事に抱え込む少し小さめのお弁当箱。
渡したら、喜んでくれるかな?
不器用な言葉
「今がチャンスじゃない?」
「で、でも」
「もうすぐ昼休み終わっちゃうわよ。私達の努力無駄にする気?」
大丈夫だって!と、いのは私の背中をばんばん叩く。い、痛いよ…いの。手加減して。
隣ではサクラが頑張ってと笑顔を見せた。
私達の視線の先には、キバ。
楽しそうに赤丸と話し込んでいるみたいだ。
「せっかく朝早く起きて作ったんですもの。渡さないと意味ないじゃない」
いのの言葉にうんと頷く。
事は昨日の放課後。私がいのとサクラにお願いしたのだ。
「「お弁当作って欲しい!?」」
「あ、うん。でも違うの。正確には手伝って欲しいの」
「アンタがそんなこというなんて珍しいわねー。一体どうしたのよ」
「……えっと…」
「ななし?」
「手伝っても良いけど理由を教えなさいよ」
「うー………」
「まっさか、アンタがキバのこと好きだなんてねー」
「い、いのっ。声でかいよ…」
私がお弁当を作ろうと思った理由。それはもちろん視線の先にいるキバ。
いのの言った通り私はキバが好き。いつからかはわからないけど、キバと話しているうちに段々と惹かれていったのは確かだ。
そんなキバが前に弁当が少なくてすぐ腹が減るんだよな、と言っていたので何とか助けてあげれないかなと考えた結果が今この状況である。
けどお弁当なんて作ったことのない私はいのとサクラには朝早くから家に来てもらってお弁当作りを手伝ってもらった。
元々不器用な私は幾度も絆創膏のお世話になりながらお弁当を完成させたのである。
「ほら、今はあいつ1人だし行ってきなさい!!」
いつまでも動かない私に、とうとういのが私の背中を思い切り突き飛ばした。
「きゃっ」
お弁当を落とすまいとぎゅっと抱え、転ばないようにふらつきながら体制を整えると目の前には愛しのあの人。
「ななしじゃねぇか!」
「キ、キバ…」
無邪気な瞳でこちらを見るキバ。それだけで私の顔はきっと赤いんだろうな。頬が熱くなるのがわかった。
「なんだ、俺に用か?」
「あー…えっと、その…」
ちらっと後ろに目をやればいのとサクラが早く渡せと目で訴えている。
そうだよね、せっかく手伝ってもらったしここまで来たんだ。無駄にしたら罰当たりだ。私は激しい動悸を抑えるようにゆっくり口を動かす。
「ま、前にさ…お弁当が少ないとか言ってたよね」
「あぁ、全然足りねぇっつうの」
なぁ、赤丸。と不満そうなキバの顔に同意するように赤丸はワンと吠えた。
「あの、さ……もし良かったら…これ」
どうもおさまらない動悸と震える手で今まで大事に抱えていたそのお弁当を差し出した。
キバはちょっと驚いた様子でそのお弁当をまじまじと見つめ、手に取った。
「なにこれ、くれんの?」
「う、うん」
「へぇ…お前が作ったのか?」
私は頷いてちょっと顔を緩める。良かった、受け取ってくれた。
私が肯定したのを見て、キバはさらに驚いた様子で一瞬黙った。
「あのね、いのとサクラに手伝ってもらっ……」
「ぶっ、はははははは!!!」
「?」
突然笑い出したキバに私は首を傾げる。私、なんか変なこと言ったかなぁ…。
ツボに入ったらしくしばらく笑い声を上げていたキバはひいひい言いながら私を見た。
「お前めちゃくちゃ不器用じゃねーか!!なのに弁当作るとか…マジかよ!?食えんのか、これ!!」
え…?
「冗談で聞いたのにマジだったのかよ!!ありえねー…はははっ!!」
「まず玉子とか割れそうにないもんな!玉子焼きに殻とか入ってんじゃねぇ!?」
そう言ってまたゲラゲラと笑い出した。
あれ…?
キバは…私を……今、私を馬鹿にしてて…?
少し混乱した頭をゆっくり、ゆっくりと整理した。
そして、
「…っ!!」
頬に涙が伝う。
笑っていたキバがまた驚き、焦りの表情を浮かべた。
「な、え…お、おいっ」
「………か」
「え?」
「キバの…馬鹿っ……!馬鹿ぁ!!!」
私は涙を拭うこともせずに来た道を通り越して走った。
いのとサクラが私を呼んだ気がしたけど、そこに居たくなくて夢中で走った。