鳴門短
□不器用な言葉
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今、俺には何が起きたのか全くわからない。
わかっているのは、ななしが俺に手作り(らしい)弁当を渡してきて、ちょっとからかってやったら泣き出して走り去っていったということ。
意味がわからねぇ。
結局受け取ったままの弁当をただ見つめどうしようか悩んでいると、目の前にすごい形相のいのとこれまた怒っているだろうサクラが立っていた。
そして放たれた第一声。
「アンタ、最っ低!!!」
ほんとに意味がわからねぇ。
「はぁ……」
時間はどっぷり経ってすでに夜。
あのあと屋上でしばらく泣いて、泣き止んでもこんな顔じゃ教室入れないと思って黙って早退してきた。キバとも同じクラスだし、尚更。
行く場所もなくて家に帰って部屋のベッドに顔をうずめて、またしばらく泣いた。
いのとサクラには悪いことしちゃった。
明日謝らないといけないなぁ。
キバ、迷惑だったのかな。
でも何もあそこまで言わなくてもよかったのに。キバは私のこと嫌いなんだろうか。
ちらりと、顔の横にある両手に目がいく。剥がれかけている絆創膏の間から見える痛々しい生傷。頑張った……つもりだったんだけどな…。
考えてるとまた目にじわりとくる。これ以上泣くと明日学校に行けなくなっちゃう。
明日どんな顔でキバを見ればいいんだろ。
咄嗟にとはいえ、馬鹿などと心にもない言葉を吐いて。
ああ、なんて不器用なの。
もっと器用なれたらこんなことにならなかったのかな。
ああ、ダメだ。泣きたくないのに。
こつん。
「?」
窓に小さな衝撃。おそらく小石でもあたったのだろう。でも私の部屋は2階。普通の風如きではこんなところまで小石はこない。つまりは誰かが意図的に投げたのだ。
悪戯?それとも…誰か呼んでる?
しばらくしてもう一回、こつんと小石があたった。やっぱり誰かが呼んでいる。
私は出来るだけ泣きはらした顔を見られないように屈んで窓を開け、少し顔を出した。暗いせいかよく確認できないが家の前には誰もいないことはわかった。
「あれ?」
目を凝らしてみるもののやはりそれらしき人は見当たらず、悪戯かな。と窓を閉めかけた。
「よぉ」
「!!」
突然の声。しかも聞き慣れたあの声がどこからか聞こえた。
急いで窓の外を見るが姿は見えない。
「こっちだ、上」
「あ………」
屋根の上に見慣れたあのフードが座っていた。言わずともわかる。私にとって今一番会いたくないその人だ。
私は窓から顔を引っ込め、その場に座り込む。
「なぁ、入っていいか」
「……良いわけ、ない…」
気まずいというのもあるし、今キバに対して怒りの部分もある。けど、それでも好きなのだ。この泣きはらした顔を見られたくない。もうこれ以上嫌われたくない。
ああ、やっぱり泣きそうだ。
「じゃぁ、そのまま聞いてくれ」
「………何しにっ…きたの…」
嗚咽交じりの声でそう問えば、少しの沈黙のあと、キバが話し始めた。
「弁当箱…返しにきた」
中まで入らねぇから、と私の隣にことんと置かれるお弁当箱。
迷惑だっただろうなぁ。なのにわざわざ持ってきてくれたんだ。
背中から小さく音が聞こえた。キバが窓の下の屋根に座ったんだとわかった。
キバと窓、壁を挟んで隣り合わせに座っている。
なんだろう、この嬉しいような悲しいような気持ち。
私の感情などお構いなしにキバは独り言のように喋り続ける。
「…米はちょっと硬かった」
「……」
「林檎ウサギに見えなかったし」
「……」
「あとポテトサラダ。もう少し潰した方が良いぜ」
「……何」
そんなことをわざわざ良いにきたの?ここまで私を馬鹿にするの?嫌いなんでしょ、私のこと。
そう言えない自分がたまらなく嫌だ。もし肯定されたら私はもっと酷い顔になる。
「でも」
「……」
「…玉子焼きは……美味かった」