鳴門短
□安眠妨害
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この状態は…生殺しというやつだろうか。
安眠妨害
「ななし」
名前を呼んでも返事をするはずもなく、俺のベッドですやすやと寝息を立てる幼馴染み。
風呂上がり、タオルを首から掛け髪の毛を拭きながら部屋へ戻ると、なんでかななしが俺のベッドを占領して寝ていた。
ふと窓に目をやれば半分開いたままのそこから生温い風がカーテンを揺らす。家が隣り、部屋が隣りとは便利だと改めて思う。
おそらくは家族と喧嘩して俺に愚痴をこぼそうと窓から渡って来たのだろう。そして俺を待ってるうちに、というやつだ。
昔からこうなので今更驚くわけでもないが今の俺は少し不機嫌である。
時計の針は11時を過ぎてそろそろ日付が変わる。今日は非番じゃなかったんだから俺だって疲れている。早く眠りたい。
「おいって、起きろ」
小さく体を揺すると、ななしはこれまた小さく声を上げて寝返りをうつ。起きるつもりは毛頭ないらしい。勘弁してくれよ。
「昔は…」
と、ふと思い返す。幼い頃からいつも一緒に遊んでいた。あの頃はよく二人で仲良く寝てたものだと。
だが俺もななしもいい歳だ。遊ぶ事はあっても寝ることなんてなくなった。というか、何度か誘いはあったが悉く断った。
その度にななしはけちだとか心が狭いとかちびちびと文句を言っていたが俺からすれば大問題だ。
昔から一緒にいた分、この幼馴染みに対する想いもゆっくりと、大きく育っていた。今や俺も男。好きな女と一緒に寝るなんざいつ理性が吹っ飛ぶかわかったもんじゃない。
「しっかし…」
どうしたものか。過去の話は置いといて。只今の俺の第一欲求は睡眠だ。だがそれを満たすにはこの安眠しているななしをなんとかしないといけない。
さっきの行動でもう起きないことはわかった。俺もこんな時間にこいつを抱えて部屋に連れて行くというのも気だるい。
そうなると、もう床で寝るしかないのか。何も敷いていないフローリングで俺は寝ないといけないのか。それだけはマジで勘弁して欲しい。
そしてふと思う。
そもそもこいつが勝手に俺の許可なくこんなところで寝ているのが悪いんだよな。だったら。
「俺は悪くないよな」
意を決して俺はななしの眠る隣りにゆっくり横になった。
一緒に寝ても文句ねぇよな。
一人で勝手に納得して横を向く。目の前には幼馴染みの寝顔。いやでも視界に入るその顔は久しぶりにじっくりと見ることができて、整った顔立ちに長い睫毛。薄い桃色の唇にいつの間にこんなに綺麗になったんだと感心した。
寝るつもりで横になったのにこうなっては寝るどころではない。予想はしていたがやはり本能にはかなわないようだ。
ふわり、と甘い香りが鼻先を掠める。他の奴等よりも鼻が利く俺でさえ、かすかにしか感じられない香り。
「…良い匂いしてんだな」
どくんと大きく脈打つ。シャンプーの匂いなのか、はたまたこいつ自身の匂いなのかはわからないが、とても落ち着く。と同時に俺の頬が火照る。
落ち着け、俺。今は寝ることに集中しなければ。明日はまたキツイ任務が待っている。
「ん………」
しかし、俺の考えとは裏腹にもぞもぞと動いて俺の方へと体を寄せるななし。寒いのか体を丸め、俺の胸の中へ納まって落ち着いたかのようにまた寝息を立てた。
まずい。これ以上は本当にまずい。
こういうのなんて言うんだっけ。性欲?
しばらくこんなに体を密接させることなんてなかったから余計に考えてしまう。この状態では胸も当たっているから尚更だ。あのぺたんこがここまで成長したかと思うと時の流れってすげぇと思う。
いやそんなことよりも、もうこれは我慢の限界というやつか。寝てるとはいえ好きな女にこうまでされて手をださない男がいるわけない。
無意識のうちに俺の手はななしの髪に触れていた。艶やかなその髪は指から小さな束となって数本流れ落ちる。そのまま髪と一緒に手も流れななしの肌に触れた。白く柔らかなその肌にどくんとまた大きく脈打つ。
このまま、手を添えてキスできたらどれほど。
そう考えても行動出来ないのが幼馴染み故の苦しみというやつか。
ななしは俺の事をそういう目では見ていないはずだ。こんな無防備で寝ているあたり。
「…生殺しってやつか」
ちくしょうと声を漏らしても当然こいつの耳に入るわけもなく、虚しく空を彷徨い消えた。
なぁ、お前は気付いてんのか?
俺は昔からお前しか見てないんだぜ。
お前のこと、こんなにも。
「俺だって…男なんだぞ」
そっと、軽く唇を重ねて俺は背を向けた。
それでも
眠る彼女に届く愛を
(朝起きたら、お前は驚くんだろうな)
(明日からどうすりゃいい)
*
な ん だ こ れ 。
最初はギャグの予定だった。だったんだ!←
安眠妨害したのはキバの方です笑
しまらないので続きます。