鳴門短

□もう一度
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貴方のその静かな微笑みに
私は恋しました。



もう一度



「あぁ、サイね」

「サイ…さん?」


甘味屋でお気に入りのみたらし団子を頬張りながら私は聞き返した。
幼馴染みのサクラはぜんざいの白玉をスプーンの上で転がす。


「ななしの言う特徴からしたらそいつしかいないわよ」


サイさんと言うのか。私は団子を口へ放り込みつつ、あの日の出来事が脳裏に浮かぶ。
あの日、私がサイさんとやらに出会った日。


太陽が西に傾き始めた頃。私はお母さんに頼まれたおつかいの帰り道。重いわけじゃないけど結構な量が入った袋を両手で持って歩く。


「ふぅ……」


でもやっぱり少し疲れて近くの丘で一休みを決めた。何もないその丘に袋を置いて隣りに腰を下ろし、わずかに赤くなった掌にふぅと息を吹き掛けてから穏やかな景色と空を仰ぐ。


「あの……」

「はいっ」


突然の後ろからの掛け声に驚き、無駄に大きな声で返事をしてしまった。
振り返れば黒髪の男の人。じっと私を見ていた。


「えっと、なんでしょう?」

「僕、今からここで絵を描きたいんだけど君の座ってる場所が一番見晴しが良いんだ」


だから退いてくれないかな。と薄く笑みを零して問い掛ける。
その静かな口角の上がり方に私の胸は何故だかどきりと高鳴った。


「あの」

「あ、えと…すみません、すぐ退きます!」


その人の声で我に返り、急いで立ち上がる。荷物を持ち上げて立ち去ろうと小さく足を上げた時。


「帰るの?」

「えっ……」


退いてとは言ったけど、帰れとは言ってないよ。とまた笑うから私の心臓はイヤってくらいドキドキして落ち着かない。
夕暮れまでまだ少し時間はあるから大丈夫だろうと、私は失礼しますと座った。
その人は笑ったまま私がいた場所に座り、ノートを広げる。筆を手に取り、すらすらと動かした。

しばらく横目でその筆遣いを見ていたけど、みるみるうちに完成されていくその絵に私は知らず知らず声を出していた。


「…すごい」

「え?」

「あ…すみませんっ」


咄嗟に謝って視線を逸らす。 集中力を切らしてしまったかもしれない。どうしようと顔を上げれずしばらく黙っていた。


「そうかな?」

「え…」


顔を上げるとやっぱり笑った顔のその人が私を見ていた。


「ごめんなさい、話し掛けちゃって…」

「構わないよ、もう完成したから」

「え、もうですか?」


早いなぁと見せてもらうと、それはもう綺麗で上手くて。あまり絵に興味ない私ですら惹かれる何かがあった。


「すごいですね…」

「そんなことないよ」


普通だよ、と言って私の手にあったノートをすっと抜き取った。


「誰でも描けると思うけど」

「そんなことないですよ!!」


本人としては独り言のつもりで小さく呟いたのだろうが、私はその言葉に過剰に反応した。だって、あんな素敵な絵私には描けないもの。


「………」


私の言葉にびっくりしたのか、一瞬目を見開いてすぐまた目を細める。


「あ…えっとですね、私は貴方みたいに素敵な絵が描けないし…。あ、あと、皆が貴方みたいな絵が描けたらこの国は絵画大国になっちゃいますし!!」


言い切ってから、自分でもわけわかんないなと思った。目の前の人は目を細めたまま黙っていて、急に込み上げてくる恥ずかしさが私の中を駆け巡る。


「君、変わってるね」


目の前の人は確かにそう言って、そして笑った。

なんだろう、ずっと笑っていた人なのに今の笑顔が一番笑ってるって感じがした。
あくまで、感じだけど。


「あー…よく言われます」


前にお母さんにも、サクラにも言われたっけなぁ。見知らぬ人にまで言われるくらいだからよっぽどなんだろうな。
一人でそんなことを考えていると、その人は静かに立ち上がった。


「さてと、僕はもう行くね」

「あ、はい。すみません、何だか邪魔したみたいで…」

「そんなことないよ。楽しかったし」


それに君の手の赤みももう消えてるだろうし。言われてみればと私は自分の白い掌を見つめた。たしかに痛みは引いて赤くもなかった。
もしかして、気付いてた…?
だから私が帰ろうとしたのを止めてくれたの?


「あのっ……」


気付いたらその人はもう何処にもいなくて。ぐるりと一周回ってみても人影はなく、私と買い物袋だけがそこに取り残された。


「…帰ろう」


少し残念な気持ちになりながら、袋を手に取って私は帰路についた。
後日、名前すら聞いてなかったことに今更気付いた私はサクラに何か尋ねてみようと今に至るわけだ。
サクラは私と違って忍びだから情報も多いはず、少しでもあの人のことがわかればと、覚えていた特徴を話した結果、名前がサイであることがわかった。

それだけでこんなにも嬉しく感じてしまうなんて。私やっぱり。


「ねぇ、なんでサイのことを聞くの?」

「サクラ…、私サイさんのこと好きかもしれない」

「はぁ?」


かもじゃなくて、好きなんだ。一目惚れってやつかな。
サクラは有り得ないといった表情で見ていた。


「あんた、やっぱ変わってるわよ」




もう一度、
あなたの笑った顔が
みたいです

(サイさんにも言われた)
(え、馬鹿にされたの?)
(そんなんじゃなかった気がするけど…)



*

ああん、もう長いgdgd((
でも2Pにすると短いっていうかorz

とりあえず、気付いて終わりだと微妙なので続きます。


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