テニプリ短
□冬待ち
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季節は9月半ばですっかり秋だというのに日差しは強く暑い。
秋晴れ、なんて言葉は無縁にも近く少し外を歩くだけで汗が伝った。
「暑い」
「暑い言うたら余計に暑なんで」
隣りで謙也はそういうけど、自身も暑いらしく異常気象に対して怪訝な顔つきで汗を払っていた。
「9月なのにね」
「せやな」
早く冬が来ないかなとかぼやいていると、謙也は嫌そうな顔で首を掻く。ハンカチを差し出すと、おおきにと首に当てた。
「冬なんて寒いだけやん」
「わかってないなー」
ぴゅうっと小さく風が吹く。頬が少し冷やされて首をすぼめる。
「お、今の冬っぽい」
ちょっと浮かれ気味の声で言えば秋はどこいったんやとつっこまれた。
謙也は渡したハンカチを乱雑にカバンに押し込んで、ふと足を止める。視線の先を合わせると自販機がぽつんと置いてあり外の明るさと同化しているものの、煌々と光を放っていた。
並ぶ色とりどりの缶はところどころ売り切れの文字が赤々と主張を見せている。その右隅にひっそりと存在するそれに目をやった。
「あっ」
「なんやななし」
「これこれ」
カバンの中から財布を取り出し、100玉を自販機に入れてボタンを押す。がこんと下で音がして出てきたそれを拾い上げた。
「汁粉?」
「そう……あっつ」
缶からじわりと伝わる熱がだんだんと強くなり、我慢できずに謙也に缶を投げた。謙也も同じことが起きているようで熱い熱いと連呼しながら缶を何度も中に浮かす。
しばらく投げていれば少しましになったようで缶を渡してくれた。ご丁寧にプルタブもあいている。
お礼を告げて口に運んだ。口の中に温かく甘ったるい小豆の味が広がる。
「ふぅ、甘い」
「汁粉なんやから当たり前やろ」
「謙也もいる?」
「いらんわ」
そもそもなんでこんな暑い時に汁粉やねん、と言われて今日の部活の話を思い出した。
「財前君と善哉の話してたからなぁ」
「財前と?」
「もうそろそろ善哉が美味しい季節だねって話してたら食べたくなったの」
善哉じゃなくてお汁粉だけどねと笑ったのに、謙也は何故かそっぽを向いて黙っていた。試しに名前を呼んでも無反応で、これは謙也が拗ねている証拠。こうなるとめんどくさい。
「ちょっと謙也」
「財前と話すな言うたやろ」
「仕方ないじゃん、マネージャーなんだし」
以前謙也は財前君と私が話していた時、今と同じように拗ねた態度をとった。そして財前と話したらあかんとたしかに言っていた。
「あかん、それでもあかん」
「わがままだよそれ」
「当たり前やんか、俺お前の彼氏やで」
こういうわがまま位許してもらわな、と開き直って。ぐいと肩を寄せられて。
時々見せる謙也の強引なところにちょっとどきっとした。
「お汁粉もういらない」
「なんや一口しか飲んでへんで」
「謙也がこういうことするからね」
暑いしもう甘ったるくて。顔を上げればそれは真っ赤の謙也が口をぱくぱくさせながらこっちを見ていた。
「な…お前…」
「やったのは謙也なのに」
すぐ照れる謙也は急いで私に回した腕を解いて。自分のやっていたことを後悔しだす。
「こんな暑いのによくやるね」
「うっさい。あっついわ」
「だから謙也が」
「うっさいわ!!」
強引に私の手の中から缶を奪い、ぐいと一気に自身の口の中へ流し込んだ。そして空になったであろう缶をぽいと投げる。
缶は小さく弧を描いてゴミ箱へと吸い込まれるように入った。
「……あっついし、あっまいわ…」
「お汁粉だもん」
「…………せやな」
もう汁粉は冬になってから買いや。そしたら奢ったるわ。そう言って謙也は歩き出した。
私そこまで汁粉好きじゃないんだけどなと言いそびれたけど、まあ良いかと私も謙也と肩を並べる。
「謙也」
「なんや」
「私別にお汁粉食べたいから冬になってほしいわけじゃないよ」
「ほな善哉か」
「違うって」
案外気付かないんだなあ、さすが謙也。くすりと笑うと睨まれた。
沈みかけた夕日はやっぱりまだ暑く、私達に一定の距離を保たせる。
「冬は寒いからね」
「当たり前やん」
早く冬が来ないかな。
そうしたら。
冬待ち
(くっけるのに)
*
またしても意味不明にorz
謙也好きー