とある想珀の細氷六花

□No.01
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常盤台中学の、校舎裏手にあるプール。

そこにはたっぷりと水が貼ってあり、きらきらと太陽の光を反射していた。

雨の多い6月とはいえ、ひとたび太陽が出れば真夏ほどではないけれども気温は高い。

美琴とゆいはプールを挟んで向かい合うように立っている。

これから行われるのは美琴とゆい・・・・・・超電磁砲と細氷六花の身体検査だ。

本来ならばこんな時期に身体検査はしない。これは美琴とゆいの特殊時間割りで、ほかの生徒たちは各教室で普通に授業を受けている。

あまりに強大な力のため、普通の測定方法では測れない。というわけで、常盤台が用意したのがこのプールでの測定だ。


『測定を開始』


機械により合図がなされる。

美琴は手に持ったコインを親指で真上にはじくと、ゆいに尋ねる。


「準備はいい?」


ゆいはすでに手を水平に挙げている。


「もちろん」


短い会話が交わされた後、美琴の指が落ちてきたコインを今度はプールに向かってはじく。

直後、とてつもない爆発音を立てて光の直線が分厚い氷の壁にぶつかり、盛大に水しぶきがあがる。

美琴のはじいたコインは、氷を数センチ抉ったところに、ぐにゃりと変形された状態で在った。

はたから見れば何が起こったのか理解できないほどの、一瞬の出来事。

美琴がコインをはじき出すと同時に、ゆいは自身の5メートルほど前、美琴から見ればプールの20メートル地点のところに、厚さ約80センチの氷の壁を創ったのだ。

その壁のちょうど水面ぎりぎりのところに美琴の超電磁砲がぶつかり、水と少しえぐれた氷を巻き上げた。

それを数回繰り返すと、プールの水はずいぶん減り、美琴やゆいに雨のように降り注ぐ・・・・・・かと思いきや、降ってきたのは水ではなく極々小さな氷の結晶だった。

太陽の光を反射してきらきらと舞うそれらは、ゆいが水しぶきを結晶化して、さらに拡散させたもの。

細氷六花の由来となる幻想的な光景だ。

機械が無機質な音ともに、測定結果を知らせる。


『超電磁砲、常盤台中学2年御坂美琴、レベル5

細氷六花、常盤台中学2年高槻ゆい、レベル5』


並んで常盤台のツートップと称される二人だ。


「全く、いくらなんでもプールの水を緩衝材にしなくちゃいけない測定方法なんて、面倒くさいわね。なんとかならないのかしら」


プールサイドをてくてくと歩きながら、美琴は愚痴を漏らす。


「しかたないよ。それだけ美琴の力が強すぎるんだから」


美琴の隣に並んで、ゆいはのんびりと答える。


「これでも精一杯セーブしてるわよ。

本気でぶっ放したらこんなプールくらい破壊してるわ。

アンタが受けなきゃ、今の威力でも壊しそうで怖いんだから」


美琴の超電磁砲は、力の加減が難しい。

どれだけ力を抜いて撃ったとしても、かなりの破壊力を伴ってしまうものだ。

だから身体検査時には必ずといっていいほどゆいが氷で壁を作り、超電磁砲を受け止める役割を負っていた。








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