長い旅路

□。
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足下がよく見えなかった。
逃げることに夢中だった。
「ギンタ!前っ・・・。」
その引き止めた声がきっかけだった。
「う、わああぁ!!?」
多分知ってた。
ソレを望んでた。
「ギンタ!!」

天使か悪魔か、そこに割って入ってきた。








真っ暗だ。
何も見えない。
けどあったかい、気がする。

なんだかアッチが騒がしいな。


「・・・タ!」
誰かいる。
「・・・ン・・ッ!ギン・・・ッ。」
誰だろう。よく聞こえない。
「ギ・・タ!!」
色んな声。
色んな人の声が―――。





「ギンタ!!」



広がった世界には人々の顔。
「ギーンターーーンッ!!」
「わっ!?」
「心配したんだから!」
それをきっかけに安堵の空気が漏れた。
ガヤガヤと全員が声を立てる。
「一時はどうなることかと思ったっス!」
「大丈夫ですかギンタ殿!いやー驚きましたぞ!」
「ギンタ、痛むところないっ?」
「ったく、冷や冷やさせやがって!」
「アランさんの言う通りだ。注意力が足りないな。」
「アル、私誰か呼んでくるっ!」
「ほーんま、大事にならんで良かったわぁ。」
「だがワシ直伝の修業もしばらくはお預けだな。」
あちこちから飛び交う言葉。
しかし、当の本人は一言も話さない。
目覚めたばかりでボンヤリとしている。
「・・・“ギンタ”?えっと・・・俺の知り合い、ですか?」
その場にいた全員が凍りついた。
そして一斉に声を張り上げる。
ギンタの前にいくつもの顔がズイと詰め寄る。
「嘘でしょギンタ!」
「冗談っスよね!?」
「・・・よく、わからない・・・。」
その後、その手に詳しい者に診てもらうとギンタは記憶喪失だと判明した。
読み書きや物の認識、日常の知識などに問題は見当たらず、自分と知人に関する記憶だけが全て失われていた。
言葉遣いなどはそんなに変わっていないらしく、自分のことも“俺”であった。。
治療法はなく、様子を見るしかないとのことだった。
「自分のことも忘れてもうたんか?」
「・・・ごめん。」
気まずそうな顔をして下を向く。
ナナシはギンタの肩にポンと手を置いて笑った。
「ええで、教えたる。お前はなギンタ・・・ワイの嫁になる子やねん!!」
「・・・・・・俺が?」
一瞬だけ信じかけた。
「違うっスよギンタ・・・。」
「まぁ・・・合ってるには合ってるけどね。」
「そんなことを言っている場合か。」
「ギンタが混乱しちまうだろうが。話が進まねぇ。」
日常のギンタとナナシを見ている皆には知れたことでだった。
「俺のこと、教えてほしい。」
ギンタが呟く。
全員がギンタを見て空気に間が空いた。
ギンタをこの世界に呼んだ張本人アルヴィスがその場を仕切る。
「そうか。だが、今は休め。起きたばかりで疲れただろう。」
「・・・わかった。えっと・・・。」
ギンタが口ごもる。
名前がわからなかったからだ。
「俺はアルヴィスだ。」
「ありがとうアルヴィス。」


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