わがままな王子様
□わがままな王子様
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テニスをしているをしている彼の姿に、自然に目で追っていた。
(すごっ!滅茶苦茶上手い)
今まで見たことのない技に、興味と憧れが心の中を廻った。
「ヤバい…!」
開いた口が塞がらなかった。
すると、後ろからいきなり声が聞こえた。
「美里ちゃん、入らないの?」
思わず反射的にビクついた。
後ろを振り向くと、スクールの先生が立っていた。
「先生、あの人は誰ですか?」
美里が指を差すと、先生はおおらかな表情で答えた。
「あの子はねぇ、都大会優勝の青春学園のこよ」
確かに今見た数々の技は都大会で優勝したと云ってもおかしくない。むしろ、関東でも通用するはずだ。いったことないから分からないけど。
「あたしも早くやろ」
何故だか彼のプレーを観たら、突然やる気が湧いてきた美里。
「k」
そんな異様な掛け声に、不二が振り向いた。
「先生、あの子は誰ですか?」
一息休憩を取りつつ、不二の目に美里が留まっていた。
「美里ちゃん?美里ちゃんは城綾中の子よ」
不二は汗を拭きながら水分補給をした。
「へぇー」
「美里ちゃん、ああ見えて結構強いのよ」
あまり痩せてはいない体型を先生は指摘した。
「全くめんどくさがって、あんまり動こうとしないのよ」
先生はそんな事をいいながら苦笑いした。
「素質あるのに」
そんな言葉に、不二の顔は爽やかに微笑んでいた。
「僕、あの子と試合したいんですけど」
先生は美里の了解を得ず、勝手に試合をすぐ始めた。
「はじめまして、城綾中の古史美里(こしみさと)です」
美里は笑顔で挨拶した。
何故かというと、美里はイケメン好きだからである。
「僕は青春学園の不二周助。よろしく」
その途端、美里の目が輝いた。
「青春学園の天才不二君とお相手出来るなんて、光栄です!」
「名前、呼び捨てでいいよ」
不二も美里の疑いのない眼差しに、快く笑顔で話した。むしろいつも笑顔だけど。
「じゃあ不二、よろしくお願いします」
そしてゲームは始まった。
「ザ・ベスト・オブ・1セットマッチ不二サービスプレイ」
イケメンと試合とか、集中できなーい。
美里からは全くもってやる気が感じられなかった。
「ハァーッ」
不二が渾身の力で放ったサーブは想像より速く、美里はピクりとも反応が出来なかった。
「速っ!」
瞬きする暇もなく唖然と口が半開きになり、体が硬直した。
「ハッ」
またもやでた渾身のサーブ。そしてサービスは不二が取り、サービス権が代わった。
「あたしも頑張りますよう」
美里の腰がバネのようにそり、トスが高く上がり、速い球がコートに打ちつけられた。
「15−0」
不二は目を疑った。
女子から出るスピードとは全く桁違いで、むしろ男子級でもおかしくないほどの速さ。
「次、行くよ」
(僕も本気で行かなきゃ。こんなスリル、滅多に味わえないよ)
「っし」
勢いよくボールがコートに叩きつけられた。
不二は何とか打ち返したが、美里に上手くコースにつかれ、このセットは美里が取った。
「チェンジサービス」
サービスは不二となった。
「不二。さっきの技、やんないの?」
物足りなさに不満げな顔をした美里。
「これからやるよ」
澄ました顔の裏腹には、心密かに燃える不二周助がいた。
「ハッ」
ボールはキツイコースラインぎりぎりをかすった。
だが、美里もキツイサイドラインへと打ち返した。
「はっ!」
不二のボールはロブが上がった。
「もらったぁ」
美里はスマッシュの態勢に入り、強烈な球を放った。だが、不二はもう構えていた。
「三種の返し玉、羆落とし」
不二の三種の返し玉(トリプルカウンター)の一つ、羆落としが出た。
誰しもがその技に目が釘付けになった。
「これが関東レベルの技か」
大人さえも感心するほどだった。
「まだまだぁ」
誰もが決まったと思いきや、美里はそれを打ち返した。
「ふふっ」
不二も美里の球を難なくと返した。
「そろそろウォーミングアップ、終わりで良いよね?先生」
美里は打ちながら突然先生に話しかけた。
「いいわよ」
先生は緩やかに微笑んだ。
「今までのが、ウォーミングアップだったってことかい?」
「うん。だって、さっきウォーミングアップ出来なかったし。やらないと怒られちゃうしね」
不二の額から汗が滴り落ち始めた。
「全く、ホントわがままだよねぇ」
「美里ちゃん」
先生の眉毛が恐ろしいほど片方だけ器用に上がっていた。
「!」
美里は先生の顔を見た途端一歩引いた。
不二はラケットを食い入るように見つめた。
(今までのは本気じゃない?)
「そろそろ本調子でいきますよ〜」
美里はさっきよりも格段に速くて重い球をキツイコースに打ち始めた。
「これは不味いなぁ」
不二のテンションも次第に上がり始めた。
「いくよ。三種の返し玉(トリプルカウンター)、かげろう包み」
またもや不二の必殺技が飛び出した。
「あんな技も使えるのかい」
辺りはいつしか二人の試合に見とれ、フェンス内は静まり返っていた。
「美里ちゃんには通じない」
「どうしてだい?いくら美里ちゃんでも、あれは太刀打ちできないんじゃ」
先生よりはるかに大きい男は、怪訝そうな顔で言った。
「見てれば分かりますよ」
男も先生も眉毛一つ動かさず、息を潜めた。
「流星花」
その言葉と同時に、ボールは不二サイドのフェンス下に転がっていた。
「一体、何が起きたんだ」
ほとんどのギャラリーはただ唖然とするしかなかった。
「あれが美里ちゃんの必殺技、流星花」
先生はニッと笑った。
「流…星花?」
「そう。球が一瞬にして相手コートに打ち込まれるの。あまりにも速すぎて、私でも打ち方が分からないんですけどね」
先生はご機嫌そうに笑みを浮かべていた。
「さぁ、もっと楽しまなくちゃ」