【超短編】

□capricious honey
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「お前、毎日本読んでて飽きねェのか?」



中央甲板に置いたパラソルの下で、デッキチェアに腰掛けながら読書を楽しんでいたナミは、頭上から降って来た唐突な言葉に顔を上げた。
見上げた視線の先には、自分を見下ろすルフィの姿。

「飽きないわよ」
「ふ〜ん…」

尋ねておいて然程関心も無さそうな船長の口調に、然り気無く周りを見回す。
前部甲板には怪し気な発明に没頭中の狙撃手と、瞳を輝かせてそれを見守っている船医の姿。
考古学者は見張り台に上がったきりだし、表向き仲の悪い剣士とコックはラウンジから出て来ない。
要するに、この麦藁帽子の少年は暇なのだろう。
だからと言って、自分を標的にされても困ると航海士は思った。

「用が無いならどっか行って」
「邪魔してねェだろ」
「気が散るの!」
「ちェッ」

不満気に口を尖らせながらも、ルフィは其処から立ち去ろうとはしない。
ナミは仕方無いと軽い溜め息を一つ吐くと、読んでいた本を閉じた。

「じゃあ、航海術の本でも読む?」

その言葉に、ルフィは心底不思議そうな顔をする。

「何でだ?」
「だって、あんた航海術持ってないでしょ?少しは勉強すれば?」
「別に必要無ェだろ?」
「何でよ?」

必要無いなんて事は無いだろう、と埒の明かない会話に少々苛立ち始めたナミに、ルフィは笑いながら言った。



「ナミが居るから必要無ェ」
「!」



満面の笑みと共に告げられた、何の意図も裏も無い紛れもなく彼の本音だと解るその言葉に。

「…あっそ」

ナミはもう一度、今度は深い溜め息を吐いて、テーブルに本を投げた。



「勝手にしたら?…ホント、タチ悪い男」





end
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