【短編】

□The Drifting Snow Hid Away My Pain
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「お前解ってんのか!?背骨にヒビが入ったんだぞ!!」



幻想的な桜色にその門出を祝われて、雪の根深い故郷の島を自分達と共に離れ。
新しく仲間になった船医の凡そ医者には見えないトナカイが、必死な様子で叫んだ言葉を聞いてその時初めて。
一見普段と何ら変わりなく見える猫背気味な黒い背中は、死にそうな程の大怪我を負っていたのだと知った。

真っ正面から咎められて大人しく暴れるのをやめた男を目の前に、急激に冷えて行く心が漠然と感じていたのは果たして。
結果的に生きて今此処に居る事への安堵だったのか、それとも。
一歩間違えばもう二度とこんな下らない掴み合いをする機会すら、この存在ごと失っていたかもしれない事への恐怖だったのか──。





   *   *   *





今日は早く休めよと最後の最後までコックに念押しして、船医は男部屋へ降りて行った。
甲板に残されたのは言われた張本人と自分だけ。
苦笑いで船医を見送った後、さて、と呟いて宴会の後始末を始めたコックを見ながら、剣士はこの男が眠りに就くのを見届けてから眠ろうと心に決めていた。
この男は見張っていないといつもの様に遅くまで起きているに決まっている。
口で催促した所で相手が自分では悪態をつかれて終わりだろう。
ならば目で威圧するしか無い。
綺麗に片付いた甲板でそんな風に思考を巡らせていると、キッチンから派手な音が聞こえた。
ほぼ反射的に立ち上がり凄い勢いで階段を駆け上がると、焦る気持ちのままに壊れる程強くドアを開けた。

「おい!!」

まず視界に飛び込んだのはシンク前に蹲る塊。
次に床に散乱する破片。

「何やってんだてめェは!!」

サンジは顔を上げて慌てて駆け寄るゾロと視線を合わせると、額に汗を滲ませながら苦しそうに笑った。
 
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