【短編】
□topaz
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「なァ、お前明日何か食いてェモンあるか?」
「──はァ?何で」
「…お前明日が自分の誕生日だって解ってるか?」
「……ああ」
「嘘吐け絶対ェ忘れてただろ!!何なんだよ今の間は!?」
サンジは舌を打ってテーブルにペンを置いた。
折角意気込んでプランを立てようと思っていたのに、予想通りと言えば予想通りの本人の反応に、一気に脱力してしまった。
常々思っていたが、ゾロはこういう事柄に対する関心が薄い。
人の誕生日は勿論、自分のそれですら興味は無い様だ。
かと言ってこの男だけ素通りする訳にはいかないし、イベント好きなクルー達がそれで納得する筈が無いだろう。
それに何より、祝いたいのだ。
恐らくこの船の仲間達の中で、自分が一番。
外面的にも、内面的にも。
それなのに。
「おい、そんな事より…」
「今日はヤんねェ」
「…まだ何も言ってねェだろ」
「図星だろうが」
「……」
「それ呑んだら寝ろ。おれもやーめた」
ふて腐れて言った言葉に、負けじとふて腐れた響きを含んで聞こえたゾロの一言が、ノートを閉じかけたサンジの手を止めた。
「…ある事はある」
「は?」
「食いてェモン」
「…だったら早くそう言えよ」
内心嬉しいながらもぶっきらぼうにそう答え、閉じかけたノートを再び開いたサンジだったが、仏頂面のゾロの発言にまたもや動きを止めた。
「ある事はある…が」
「…が?」
「名前が解んねェ」
「…はい?」
ポカンとした様子のサンジに、苦虫を噛み潰した様な顔でゾロは言った。
「ガキの頃何回か食っただけのモンで、名前も解んねェし何が入ってたのかも覚えてねェんだ。具体的な味や見た目は忘れちまった」
「……」
「こんな曖昧な記憶じゃ、幾らお前でも再現出来ねェだろうが」
呆れた様に発せられたゾロの言葉に、今度はサンジが憮然とした表情になる。
「…じゃあおれには何も出来ねェって事かよ」
「違ェよ、今年はいつもと同じで良いっつってんだ」
「でもお前が一番食いてェモンは作れねェんだろ」
「あのなァ…」
ゾロは溜め息を吐いた。
自分が出来うる全てで祝ってくれようという心遣いは有難いのだが、本当にその気持ちだけで充分なのだ。
素直に嬉しいと思うし、そんな彼を愛しいとも思う。
仲間達が楽しんでくれるのならば派手に騒ぐのも悪くは無いし、コックという立場上サンジが何か特別なものを作りたいと思うのも解るが、そういう事では無くて。
何と言うか、急ぐ事では無いと思うのだ。
目の前でいじけている男に、何と言ったら自分の真意が伝わるだろうか。