【短編】

□topaz
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「お前おれの話ちゃんと聞いてたか?」
「…何が」
「『今年は』っつっただろ」
「あァ?」

案の定サンジは、何を言っているのか解らない、という表情で顔を歪めている。

「さっき言った食いてェモンの事は、これから先少しずつ偶然にでも思い出すかもしんねェ」
「……」
「だからそん時食わしてくれりゃあ良いんだ」
「え…?」





「五年後でも十年後でも構わねェからよ」





サンジは目を見開いた。
自分が今言った言葉の意味を、この男は解っているのだろうか。



『五年後でも十年後でも』





それは、つまり──。





「言ってる意味、解るか?」



そう尋ねるゾロの頬が少し赤いのを見て、自分の顔がみるみる内に染まっているだろう事が見なくても解る。

「…十年後もおれの飯食ってるつもりかよ」

ほぼ条件反射的に出た悪態に、すっかり元の凶悪面に戻ったゾロが不敵に笑った。

「何だお前、そんなに早く死ぬ気なのか」
「アホか!!誰がてめェより先に死ぬかよ!!」
「だったら当たり前の事だろ」
「当た…!!」

サンジはテーブルに突っ伏した。
余り喋らな過ぎるのも困るが、たまに口を開けば殺し文句のオンパレードなのはやめて欲しい。

「う〜…クソ!!」

真っ赤な顔をして勢い良く立ち上がったサンジは、そのままツカツカと向かいに腰掛けるゾロに近寄ると、突進する勢いで正面から抱きついた。

「気が変わった。ヤる」
「…へェ?そりゃまた何で」

顔を見なくてもその声の気配だけで、面白そうに笑うゾロが手に取る様に解るのが悔しくて仕方無いサンジは、背中に回るゾロの手を感じながら、無駄な足掻きと知りつつも本日最後の悪態を吐いた。



「てめェにだけは絶対ェ言わねェ!!」





本当は、最高のリクエスト料理で祝ってやりたかったけれど。



今年はそれが出来そうにも無いから、せめて。



お前がこの世に生まれたその日に、日付が変わる瞬間に。



自分以外他の誰もお前と出来ない事をしていよう、なんて思う自分は。



正真正銘のアホかもしれない。





「…ゾロ」
「ん?」



「誕生日おめでとう」





いつか絶対食わしてやるからな。
勝手に誓っとく。





end
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