【短編】

□her powers of observation
2ページ/4ページ


例えば──。

私より肌の色が白い事だとか、立っ端が違うから当たり前だけど腰の位置が高くて脚が長い事だとか。
顔が小さいからひょろ長く見えるけど、しっかりと筋肉の付いた男の身体をしてて全身のバランスは良い所だとか。

今はその後ろ頭しか見えないけど、容易に記憶を呼び起こせる普段の子供っぽい笑顔や怒った顔や泣き顔や、私やロビンに見せるデレデレした鬱陶しい顔の裏に隠してある、偶にハッとする程大人臭くてやっぱり年上の男なんだと実感させる表情を見せる時の、貴方自身だとか。
普段の貴方を知ってるからこそ感じるギャップが魅力的だと思うし、黙ってれば傍目には素敵な男性なんだろうけど、私は嫌いよサンジ君。

貴方は解り易く優しいから、他人をそれとなく甘やかすのがとても上手よね。
別に気にして見てなんかいない風で実はちゃんと見てるから、他人の感情の動きに敏過ぎるのよ。
でもいつも人に与えてばかりだと、その内自分が空っぽになってしまうでしょ?
だからそうならない様に本当はしっかりと補充してる事、私知ってるのよ。
普段とは逆に甘やかされて見抜かれて、与えられてる貴方を知ってるからこそ私達に見せる余裕に腹が立つのよ。

そういったものが全て憎らしいと思ってしまうのはきっと、それを生み出してるのが今私の目の前できついアルコールをまるで水みたいに流し込んでる男だって知ってるからね。
受け取り手に因っては解り難く感じるだろうけど実は優しいこの男には、周知の事実として貴方しか見えてないんだもの。
お互い当たり前の様にそれぞれ好きな事をして時間を過ごしてても、何でもない事みたいに共に寄り添ってる感じがこっちにまで伝わって来るのがまたムカつくわ。



「ナミさん、紅茶のお代わりは?」
「もういいわ。ありがと」

貴方が笑顔で話し掛けて来れば、私も笑顔で返す。
例えそれがいつも貼り付けてる笑みだと、お互いに解っててもね。

「そう?」
「ええ。もう終わったの?」
「後は仕込みやったら終わりだよ」
「そう」
「…おい」
「へいへい…」

ほら、ね。また。
貴方達は夫婦ですか?ってのよ。



ねえ、一体貴方と私の何処が違うのサンジ君?
自分で言うのもなんだけど、働き者で苦労人で、実質この船を動かしてるのは貴方と私くらいのモンだわ。
船旅に於いて毎日必要とされる役割に就いてて、日々確実に職務をこなしもそれをひけらかす事なんて当然しない。
ほら、こんなにも似通ってるじゃないの。

違うのは精々性別の違いから来る根本的なものと、お互いの『相手』くらいでしょ?
悪いけど、その相手を想う気持ちだったら、貴方が相手を想う気持ちに負けてない自信があるわ。
まァ、それは貴方も同じでしょうけど。
でも、だからこそ思うのよ。
相手が違う事を差し引いても、どうしてこんなにも還って来るものが違うのかしら、ってね。

ただ一つだけ誤解しないで欲しいのは、私は別にあいつに見返りを求めてる訳じゃないって事よ。
そりゃ確かにあいつは掴み所が無いし、無鉄砲で何考えてるかなんて全然解んない奴だわ。
それでも良いと思ってしまった時点で、苦労するのは最初から覚悟してる。
でもね、私だって普通の一人の女だから、自分ではコントロールの効かない寂しさに突然襲われる時もあるの。
無償に誰かの体温が側に欲しい夜だってあるの。



そしてその『誰か』はもう、たった一人に決めてしまってるの──。



そんな瞬間が訪れる度に私がどんな気持ちを味わうかなんて、貴方には解らないでしょサンジ君?
だからこれが単なる僻みややっかみだって事は百も承知の上で、それでも度々貴方達を恨めしく思う自分を止められないのよ。



「ほれ。今日はもうコレで最後だからな」
「おう、悪ィな」



って言うか。
何?今の──。



私の目線が日誌にしか向いてないから、見えてないだろうとでも思ったの?
お生憎様、顔は下を向いてても視界にはバッチリ入ったわよ。
テーブルにおつまみを置いたサンジ君の右手がそのまま持ち上がって、指先でサッと撫でるみたいにしてゾロの左耳のピアスに軽く触れたのが。

そしてゾロ、あんたそのまま流れる様な動作で離れて行こうとした指先を、グラスを持ってない方の左手で捕まえたわよね?
引き止める程しっかりとじゃなくてほんの一瞬だけパッと弱く握って、直ぐに擦り抜けさせて素直に逃がしてやったでしょ?
それなのにまるで最初から何も無かったかの様に眉一つ動かさないで、言葉だって一言も交わさないでお互いに自分だけの空間に戻って行くのね。



──やってらんないわ。



嗚呼もう、本当にやってらんない。
やだ、字間違えちゃった。
私にあるまじき失態だわ。
一体どうしてくれるのよ、この気分を。


 
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ