【宝庫】

□夕暮れ時、僕は君を想う
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胸を引き裂かれる絶望の痛みで航海士は目を覚ました。

今でも時々、大切な人を目の前で失ったあの日を夢に見る。




手が震えていた…




震える自分の手を静かに見つめ、小さく息をはく。

心臓の鼓動は未だ悪夢に捕らわれ酷く早い。

額の汗を拭う。




少し外の風にあたろう。




ちょっとの昼寝のつもりがよほど時間が過ぎたらしく、太陽はもう西に沈みかけていた。




穏やかな夕暮れ。




潮風が優しく頬を撫でる。

その柔らかさにほっとした。




いつもの特等席で彼は海に沈む太陽を見ていた。




オレンジ色に染まる海。



「今日の夕日きれ〜」



航海士の声に彼が振り返った。



「何だナミ〜おめーひでー顔だぞ」



「…ルフィ、いい度胸ね〜私にケンカ売るなんて!」



精一杯の明るさで航海士はおどける。



「どうしたんだ?」



真剣な真っ直ぐな眼差しは、明らかに航海士を心配し気遣っている。

彼に嘘は通じない。



「…ちょっと嫌な夢見ただけ」



航海士の声が少し震えた。



「そうか」



そう言っただけで彼は航海士に背を向けた。



「ナミ!今日の夕日はスッゲーぞ!」



「…うん、本当にね〜綺麗」



「お前の髪とおんなじ色だな!」



「え?」



「すんげー綺麗だ」



「…」



「ナミ!大丈夫だ!!」



「…え?」



「大丈夫だ!俺はつえーぞ!海賊王になる男だ!」



「…」



「絶対大丈夫だ。俺の仲間に手出しするやつは俺がブッ飛ばす!
だからそんな顔すんな。」



「うん…」



「おめーのそんな顔見ると、俺は腹が減った時みたいに苦しくなるんだ〜
…何でだ?」



ボソッと自問自答する彼に航海士は笑った。



「ったく…腹が減った時みたいって何よぉ〜」



「二ヒヒヒヒ」



「バカ…」



「俺の隣にいろ」



「…」



彼が特等席からぴょんと降りると、自分の麦藁帽子を航海士の頭に被せた。

自分より少しだけ背の高いまだ少年らしさを残した彼。

夕日を背に眩しく、頼もしい。

航海士は静かに微笑む。



「ナミ、笑ってろ」



「…」



「おめーはずっと笑ってろ」



涙が頬をつたう

自分に被せられた麦藁帽子でそっと隠す。



「すごい夕日…今日は本当に綺麗」



「うん。綺麗だ」



彼は航海士を見つめたまま、つよく頷き、少し恥ずかしそうに笑った。






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