○小説置き場V○
□Addicted
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ふと窓の外を見ると綺麗な青空が広がっていた。
部屋から見える背の高い木の周りを蝶が遊ぶように飛ぶ。
『ごめんな』
あのひとは言った。
『好きだよ』
ずっと欲しかった言葉なのに、嬉しいと思えなかった。
『引っ越そうと思う』
僕がそう言ったとき、彼はなぜって顔をして尋ねた。
『どうして』
だから嫌なんだ。
バイの男なんて。
−奥さんと子供によろしく。
心の中で毒づいて最後に会った日の翌朝、彼への想いは合い鍵ごとポストに投げ入れた。
ぼんやりと彼が奥さんを抱いているところを想像する。
悲しさはなかった。
静かすぎる新しい部屋で空調の音だけがはっきり聞こえる。
『寂しくなるね』
別れ際に彼が言った一言で、二人の関係が単なる戯れではなかったのだと思えた。
彼と過ごした時間は今も、あの小さなワンルームにひしめき合っている。