○小説置き場V○

□Addicted
1ページ/1ページ

ふと窓の外を見ると綺麗な青空が広がっていた。

部屋から見える背の高い木の周りを蝶が遊ぶように飛ぶ。

『ごめんな』

あのひとは言った。

『好きだよ』

ずっと欲しかった言葉なのに、嬉しいと思えなかった。

『引っ越そうと思う』

僕がそう言ったとき、彼はなぜって顔をして尋ねた。

『どうして』

だから嫌なんだ。

バイの男なんて。

−奥さんと子供によろしく。

心の中で毒づいて最後に会った日の翌朝、彼への想いは合い鍵ごとポストに投げ入れた。

ぼんやりと彼が奥さんを抱いているところを想像する。

悲しさはなかった。

静かすぎる新しい部屋で空調の音だけがはっきり聞こえる。

『寂しくなるね』

別れ際に彼が言った一言で、二人の関係が単なる戯れではなかったのだと思えた。

彼と過ごした時間は今も、あの小さなワンルームにひしめき合っている。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ