○小説置き場U○
□笑うペテン師
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「君、いくら?」
「…は?」
バイト中のコンビニで、失礼極まりない男の言葉に唖然とした。
「…126円が一点」
聞き間違いだろうと納得してペットボトルのお茶をスキャンする。
「ねぇ、聞いてる?」
「…はぁ、あの…どういう意味ですか?」
レジをいじりながら、ちらりと男を見やる。
「君を買いたいんだ、言い値で構わないよ」
爽やかに微笑む男に誤魔化されそうになるが、今すごく下品なことを言われた気がする。
「あー…すいませんけど俺は売りもんじゃないんで」
冷たくそう言うと男は驚いた顔をした。
「えっ…あっはは!面白いなぁ、君」
−別に冗談を言ったつもりはない。
「いいよ、ますます気に入った」
−えぇー…めんどくさ。
「君が仕事終わる頃迎えに来るよ、何時までなの?」
「…17時」
「了解、またあとでね」
男は商品を受け取るとひらひらと手を振って店を出ていった。
「…あ、時間教えちゃった」
勢いに押されてつい正直に答えてしまった。
自分の失態に小さく溜め息を吐くと屈んでビニール袋を補充した。
「お疲れさま」
コンビニを出ると昼間の男が車に寄りかかって待っていた。
車種は分からないがいかにも高そうな車だ。
「…どうするつもりですか」
「んー、まずは食事かな」
助手席のドアを開けて手を引かれ、座り心地のいいシートに凭れる。
「何が食べたい?」
「…肉」
短く答えると男は若いね、と笑って運転席に乗り込んだ。
「ところで君、下の名前は?」
「…ルイ」
「ルイか、いい名前だね」
男は満足そうに笑うとすいっと名刺を手渡した。
「僕のことは祥成(しょうせい)でいいよ」
長々と漢字で書かれた肩書きと名前を見ながら難しい字だなと思った。
食事をしている間中、祥成はこちらをじっと見ていた。
「…食べないの?」
視線が気になって尋ねると彼は薄く笑った。
「ルイが食べてる様子が可愛くて見入っちゃった」
「…そーすか」
訳の分からないことばかり言う大人だ。
その後も祥成は飽きずに俺を見ていて、食事はおいしかったがあまり食べた気がしなかった。
「ごちそうさまでした」
駐車場でぺこりと頭を下げると大きな手で髪を撫でられる。
くすぐったくて目を瞑ると慣れた様子でキスをされた。
「なっ…」
「…唇、やわらかいね」
親指で下唇を撫でられ頬が熱くなる。
「もっと触りたいな」
腰を抱き寄せられ身体が密着する。
祥成の長い脚が俺の脚の間に入って開かせる。
「今度はルイを食べてもいい?」
「…オヤジだ」
せめてものつよがりを言うと髪に唇を押し当てられる。
「そうだね」
指で首筋に触れられ祥成を見上げると、騙すような優しい笑顔で見つめられた。