贈りもの
□莉紅舞様へ
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ある雪山の山奥・・―、
人っ子一人おらず、ただ雪景色しか広がっていないこの静かな空間に、元気な少女の声が響いた。
「fox様ー!すごく積もってますよー!」
「あぁ、そうだな。」
「今日はいっぱい遊びましょうね!!」
よほど嬉しいのか、雪綺は楽しそうに笑い、長い髪を揺らしながら、真っ白な雪の上を駆け回っている。
(なんて、なんて可愛いいんだっ・・・!)
本当は、今すぐにでも彼女の傍に行き触れたいが、今日は体が凍っているのではないかと思うほど寒く、体を上手く動かせない。
(あぁ、この動かない体が憎い。この遠い距離が憎い。)
小さく震え、白い吐息を吐きながら、今も楽しそうに雪で遊んでいる雪綺の姿をただ見つめるだけ。
すると、 座り込んで雪玉を作っていた雪綺が、突然顔を上げ、こっちに顔を向けた。
お互いの視線が絡み合う。
その瞬間、彼女が嬉しそうに、笑った。
鼓動が強く跳ね、
込み上げたのは、彼女への強い、愛しさだけ・・・・。
「っ、雪綺!!」
気づいたら体が動いていた。
走るたびに雪が舞い上がって、髪や着物にかかったがどうでも良かった。
ただ、心が、本能が彼女の温もりを求めて、ただ、抱きしめたくて・・‐―。
fox様が私の名前を叫んで、冷たい雪がかかるのも気にしないで、こちらに走ってくる。
その行動が嬉しくて、その姿が、愛しいと思った。
少しでも早く、貴方に近づきたくて持っていた雪玉を放り出して、立ち上がり、私も駆け出した。
早く貴方に抱きしめて欲しくて、体全部で、貴方の温もりを感じたくて・・‐―。
だから俺は(私は)、今、貴方のもとへ
ある雪山の山奥・・―
そこで見えたのは、一面の雪景色と、お互いの温もりを確かめるように強く、 抱きしめ合っている、
キツネと雪の少女の姿だけ。