贈りもの

□莉紅舞様へ(bQ)
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 「お父さん、おれデパートに行きたい!」


・・・昨日、亞瑠斗が可愛いらしい笑顔で(本当は抱きしめたかった…!)我にそう言った。


そしてその夜、亞瑠斗が眠りについた後、我は一人考えたのだ・・・・。

 もし、我と亞瑠斗が二人でデパートに出掛けたときのことを‐―。


(α様、妄想。)


「お父さん!早くおもちゃ屋に行こうよっ!あと、デパ地下ってところにも!」
我の手を小さい手で引っ張りながら、亞瑠斗はその瞳を輝かせ、可愛いらしい笑顔を見せる。

亞瑠斗に引っ張っられることもその可愛いらしい笑みを向けられていることも、我にとっては、堪らない程嬉しいことだ。
だが、その愛らしい姿を他人が見ているのは嫌だ・・・。
(もし変態でもいたなら、我の亞瑠斗が汚されてしまうではないか!)

そのような事態を想像し、我の右手を可愛いらしく繋ながら歩いていた亞瑠斗に、今すぐ帰宅しようと言うため、顔を向ける。 ・・・・が、亞瑠斗がいない。


「・・・・・、亞瑠斗?」
あたりを見るが知らぬ人間ばかりで、あの愛しい姿は見えない。
それを認識した瞬間、頭が真っ白になった。
が、それも一瞬で次の瞬間には、来た道に向かって、人混みの中を早足で駆け出していた。
(あぁ、やはり変態に連れていかれたのか!?だが、それなら亞瑠斗も抵抗するはずだ・・。
・・・まさか、亞瑠斗が自ら望んで変態の下に?!
いやっ、あの純粋な亞瑠斗に限って・・・。
 だが、もしそうならば・・・、我も変態になるから戻って来てくれっ!亞瑠斗ぉお!!)

この際、迷子センターという手もあるが、そうなれば放送をかけられ、他人に亞瑠斗の事が知られてしまう。
(そのようなこと、我は死んでも断る!
亞瑠斗は我だけのものだぁああ!!!)

表面は無表情、内心では半泣きである。

 頬にかかってくる自分の金髪が鬱陶しい。


とりあえず・・・、
(亞瑠斗が見つかった暁には、我の亞瑠斗を汚した変態を殺してしまおうか。いや、殺そう。)
変態への殺し方を考えていれば、フッ、と右側に立て掛けられていた、ある看板が目に留まる。
一旦、動かしていた脚を止め、もう一度その看板をよく見る。
そこには地下、所謂デパ地下と言われる場所で行われているらしい、バレンタインのイベントの事が載せられていた。

それを何となく読み、そう言えば行方が分からなくなる前、亞瑠斗がおもちゃ屋の他に、デパ地下にも行くと言っていた事を思い出す。

(亞瑠斗はここにいるのだろうか・・?)
それならば、この看板が我の目に留まったのも頷ける。
(やはり、我と亞瑠斗はいつ何時も、切れぬ糸で繋がっているのだ!!
そこら中に居るであろう、変態などに負ける訳がないっ!
フハハハッ!!!)

α様、壊れる。


暫くの間、感動に浸りながら、姿が見えぬ変態を嘲笑った後、亞瑠斗がいるであろう、(いる事は既に決定。)地下へと向かう。

偶然にも、我が居る場所の近くにはエレベーターがあった。 (エレベーターで向かうか・・・。)

そう考え、体の向きをエレベーターの方へと変える。
そのまま歩き出し、エレベーターへと向かう。


「お父さーん!!」

が、少し進んだところで聞こえてきた、先程まで思い浮かべていた、愛しき息子の声に動きを止める。

その声が聞こえてきたのは、我の右側。

体を右側へと向けると、その瞬間、お腹の辺りに抱きついてきた存在を、反射的に抱きしめる。

「・・・・・亞瑠斗?」

少し茫然としたままそう呼ぶと、
顔を上げると、亞瑠斗は満面の笑みを見せながら、

「お父さん、ただいま!」
嬉しそうに、そう言った。




・・・・・・・・そのような展開を考えていたのだが、我は。

確かに、我の前には満面の笑みを浮かべた亞瑠斗が立っている。その姿には、特におかしいところはない。
 が、その隣には、見知らぬ女が、微笑みながら立っている。 ・・・しかも、亞瑠斗と手を繋ぎながら。

「・・・・・、亞瑠斗・・?」
微かに掠れた声で呟けば、
「あ、お父さんただいま!」
亞瑠斗の嬉しそうな声が返ってきた。

 確かにそう言ってきてくれるだろうと考えていたが・・・。全く、嬉しくない。

ゆっくりと亞瑠斗に向けていた目線を、隣の女に向け、睨みつける。
それに気づいているはずだが、その女はいまだに微笑んでいるだけだ。

(この女、やはり変態か!!
あぁ、早く亞瑠斗を離さなければ、汚される・・・!)

そう思いながら女、もとい変態を睨みつけていれば、

亞瑠斗の元気な声が聞こえてきた。
「あ!あのね、さっきね、この人にデパ地下でチョコ買ってもらったんだよっ!かっこいい車のおもちゃも!」
そう言って、嬉しそうに笑っている、我の愛しき亞瑠斗。
 よく見れば、その左手には、いくつかの袋が持たれている。

(あぁ、やはりこの女・・・、変態かっ!!
我の亞瑠斗を餌付けしよって・・!!
それに、わ、我だって格好良い車だって、デパ地下のチョコレートだって100個でも200個でも買ってあげれるわっ!!)

体から怒気を放ちながら、先程よりも女を強く睨み付ける。 今すぐ、先程まで考えていた殺し方をこの女に実践したかったが、とりあえず今は、早く亞瑠斗をこの女から離したい。
そう思い、女を殺したい衝動を抑え、亞瑠斗に片手を差し出す。

亞瑠斗は我の考えが分からぬのか、我が差し出した手を見つめながら、きょとんとしている。

「・・・・亞瑠斗、帰ろう。」

そう言えば、亞瑠斗は顔を上げて少し首を傾げながら、我の顔を見つめる。

そしてにぱっ、っと
笑い、
「うん!帰ったら、一緒にチョコ食べようね!!」
そう言って、女と繋いでいた手を離し、変わりに我が差し出していた手を強く握った。

「・・・・・、あぁ。」
それが、堪らなく嬉しく、繋がれた手を強く握り返した。

フッ、っと女の方を見るとそこには誰もおらず、デパートを行き交う人しか見えない。

「逃げられたか・・・・。」
(まぁ、顔は覚えているのだから、後で探し出してしまえばよいか・・。)

今だけは、あの女のことなど綺麗サッパリ忘れて、亞瑠斗と共に家に帰ろう。


そして、ゆっくりと歩き出した時、最初と同じように我の右横を歩いていた亞瑠斗が、満面の笑みを浮かべ、無邪気な声で、こう言った。

「またあのお姉ちゃんに会いに、デパートに来ようねっ!!」


 ―― ‐―
「・・・あ、亞瑠斗は我のだぁ!!」

目を見開き、勢いよく起き上がれば、目に映ったのはデパート・・、ではなく、自分の家のリビング
であった。

いつの間にかソファの上で寝てしまっていたらしい。

つまり、今までのことは・・・
「夢、だったのか・・・・。」

そう認識した瞬間、安堵のため息をついた。


とりあえず、デパートには行かないでおこう。絶対に。
 そして、あの女を捜し出さなけば!


亞瑠斗は誰にも渡さない!!




(その後、起きてきた息子に、半泣き状態で抱きついたらしい・・・。)

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