ぷらいべーと

□とある金曜日に起きた出来事
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「で?どの娘が先輩のお目当てなんですか?」
後輩子ちゃんは笑っているけど。
みるみる眉が危険な角度につりあがる。
「あ、いや、違うよ。確かに彼女達は可愛いけど、ほら、博物館にある絵画みたいなもので。ああ、美しいなぁ、って。」
後輩子ちゃんはたりたり、と汗を流す私のグラスをつまみあげて。
「すみませーん。これ、おかわり。あ、ジントニックじゃなくて、ラムトニックにしてください。」
「ラムトニックって・・・聞いたコトないよ!」
「あら。」
「ジントニックのジンをラム酒に変えたらラムトニック。ウォッカに変えたらウォッカトニックですよ?」
後輩子ちゃんはぺろ、と舌を出して。
「ラム酒って、情熱の味がすると思いません?今日は誰が目当てでここに通っているのか、白状するまで帰しませんから。」
ほどなく、ラムトニックが来て。
「うふふ。かんぱーい!」
「か、かんぱーい。」
ダイキリの残りを一気に煽った後輩子ちゃんは。
「ん・・・?先輩。かんぱーい!」
ちび、と恐る恐るラムトニックを舐めただけの私を覗き込む。
「え・・・だって・・・」
「かんぱーい!」
・・・ずるい。後輩子ちゃんは一杯目の残りをちょっと飲んだだけなのに。
私はあきらめて、くい、とラムトニックを空ける。
とたんにぐらん、って世界が揺れる。
「あ、あのね、後輩子ちゃん。カクテルってこういう飲み方じゃないんじゃないかなぁ。」
・・・やばい。ラムトニック、けっこうキく。
「あら、藍子。いらっしゃい。」
この店のママ・・・美咲さんが背中から抱き付いてくる。
私はつい、ほっとして。
ぱぁぁ、って笑顔を浮かべて。
「美咲さん!今日はね、後輩子ちゃん、連れてきたよ!」
「あら。初めまして。」
美咲さんは酔っているのか、きゅ、って私を抱きしめて。
耳元で囁かれるのがくすぐったい。
「初めまして。後輩子っていいます。」
後輩子ちゃんもにっこりと応じる。
すかさず美咲さんは耳元で。
「ね、連れてきたってことはもうやっちゃったの?」
こしょこしょって囁く。
「やっ・・・そ、そんなコトない!そんなコトないよ!」
美咲さんはふい、と離れて。
「そうなの?・・・私、てっきり・・・」
私の向かいに座っていた後輩子ちゃんが、がたた・・・と椅子を私の隣に持ってきて。

「・・・てっきり、なんです?」

私の腕を取って、にこ、って笑う。
「あら。グラスが空いてるわね。」
美咲さんは後輩子ちゃんの質問には答えず。
「初回サービスで奢ってあげる。ちょっと待っててね。」
カウンターの奥に消えた。
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