さわ子と紬の部屋

□罠と魔法とあなたと私
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とある海外の高級ホテルの一室。私は思わず入り口で足を止めた。
「うわぁ。すごいわね、この部屋。ほんとにあの金額で良かったの?」
「ええ。父の経営するグループの旅行会社に相談したら安くしてくれたんです。」
「で、でもこれじゃいくらなんでも赤字なんじゃ・・・」
「そうなんですか?律っちゃんに教えてもらったんですけど『もう一声ー!』って言い続けるとどんどん下がっていくんです。」
・・・いやいやいや。違う違う違う。
私はがしっ!とムギちゃんの肩をつかんで。
「ムギちゃん・・・それ、間違ってる。間違ってるから。」

それは卒業式も迫ったある日。
ムギちゃんが職員室の私を訪ねてきて、唐突に言った。
「ねぇ、さわ子先生?私達今度、卒業旅行に行くんですけど・・・一緒に行きません?」
「・・・琴吹さん?職員室ではもう少し静かに話してくださいね?」
私は職員室の他の先生の視線を気にしながら『大きな声で』言った。
「それと、卒業旅行はみんなだけで行ってらっしゃい?」
「ええー?だって合宿とかは来てくれたじゃないですか。行きましょうよぅ。」
職員室内でもちょっと笑いが起きる。

分かってる。これは罠。
彼女は私の逃げ道を一つ一つつぶしていくつもりだ。

私はそーっと学年主任の先生を見る。彼女の眼鏡がキラリと光る。
ほら、にらまれたじゃない。
「合宿は部活動でしょ。・・・もう、ちょっと進路指導室ででも話しましょう。」
まだなにか言いたそうにしているムギちゃんの腕を取ると。
彼女は待っていたかのように言った。
「え、ええっ。先生ったら、もう・・・大胆なんだから。」
「・・・大胆じゃありません!」

私はムギちゃんの手を取って職員室を出て、すぐ隣の進路指導室へ駆け込む。
カチャ・・・私より遅れて入ったムギちゃんが後ろ手でドアに鍵をかける。
だから、いらないって言ってるでしょ、それ。
「・・・もう。またにらまれちゃったじゃない。」
私はため息をついて言った。
「それでなくても学園祭の時とかやりすぎって言われてるんだから。」
「やりすぎ・・・って?」
「あんまり特定の生徒に肩入れしないように、って。もううんざり。」
私は両手を広げて言った。
「まぁ、あれは部活動の顧問ってこともあったし、演劇部とかにも衣装提供したから趣味で済んだけど。」
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