さわ子と紬の部屋

□初めての恋が終わる音
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作者注:本作品はわがままなプロポーズのSide:菫です。
初めに「わがままなプロポーズ」をお読みになることを推奨いたします。

ガチャ。
「・・・おはよーっす。」
音楽室のドアが開いて、顧問のさわ子先生が入ってきました。
今日はいつもにましてテンションが低いです。
「あ、さわちゃーん。おはよーっす。」
まず迎えたのは純先輩。
机の上にべたっと臥せっていて、とても先生を迎える態度とは思えません。
「おはよー・・・って、純ちゃん、もう午後だよ?」
くすくすとおかしそうに笑う憂先輩。いつも可愛い人です。
「おはよーって最初に言ったのは先生じゃん。私じゃない!」
これで部長の梓先輩がいれば「何だらけてるんですか!しゃんとして下さい!」っていうところだけど。
今日は部長会議とかで遅くなるそうです。
後は同級生の奥田さんだけど、これも日直で遅くなるって言ってました。
かくして、誰も止める者なく、今日も我が軽音部はゆるゆると時間を過ごしています。

本来は顧問のさわ子先生がびしっと締めるべきだと思います。
私はだらけているさわ子先生を見つめて。
お嬢様はこの人のどこがそんなにいいんでしょう。
とてもあの容姿端麗、成績優秀、性格抜群のお嬢様が好きになる人に見えません。
「なぁに、スミーレちゃん。なんかついてるー?」
あんまりまじまじと見つめていたものだから、先生がいぶかしげに問い正す。
「いっ、 いいえ。なんにも。」
「そう?・・・惚れちゃダメよ?」
「えっ・・・」
あまりにも妖艶な微笑みです。オトナの女性の魅力って感じです。
これでお嬢様を誘惑しちゃってるのでしょうか。
蛇に睨まれた蛙のように固まっている私に。
「先生はお疲れですね?」
憂先輩が助け舟を出してくれる。
さわ子先生は机の上に突っ伏して。
「そーなの!中間テストの採点と教務委員会の資料が重なっちゃって!3日徹夜したのよ!もう死ねるー!」
「うえー。さわちゃん、私、どうだったー?ヤマ外れちゃったのよねー。」
期待の眼差しで純先輩が見上げる。
「さぁ、どうだか、楽しみにしてらっしゃい。」
「なんだよー。軽音部のよしみでおまけしてくれないの?」
さわ子先生はひらひらと手を振って。
「あくまで実力勝負よ。手加減なし。」
「えー。音楽って地味に内申に響くのにー。」
純先輩はなおも食い下がる。
取り合わない先生に憂先輩が困ったような微笑みで。
「純ちゃん、期末は一緒に勉強しよう?大丈夫、十分取り返せるよ。」
「う、憂・・・愛してるー!」
抱きつく純先輩を優しく憂先輩が撫でる。
このお2人は公然といちゃいちゃしているけど、ほんとのところはどうなんでしょうか。
「はいはい。がんばってねー。」
もううんざり、と引きつった笑いを浮かべるさわ子先生に。
「・・・ところで、さわちゃん、もうお肌の曲がり角なんだから、徹夜はまずいんじゃないのー?」
反撃とばかりに、純先輩が言ってはならない一言を言う。
さわ子先生がメガネを外す。
「・・・なんだってぇ?もう一度、言ってみやがれ!」
ひぃぃぃ・・・と純先輩が震え上がり、憂先輩が困ったような微笑みを浮かべる。
お嬢様、私も大分慣れてきました。
吉本新喜劇みたいなお決まりの展開です。

私は前にもさわ子先生がメガネを外したところを見た事がある。
そう、お嬢様をさらいに来た。あの時。
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