さわ子と紬の部屋

□えすとえむの恋愛事情
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「あ、もしもし、おねぇちゃん?つながった?」
「あ、うん。大丈夫。」
おねぇちゃん・・・琴吹紬お嬢様の声がする。
「・・・私も。つながってる。」
直の声もちゃんと聞こえる。
顔を上げるとちょっと離れたとこでハンズフリーのマイクロホンを付けた直が小さく手を振る。
私達は携帯電話で多拠点をつなぐサービスを利用して3人で会話していた。
「ごめんね?変な事に巻き込んじゃって。」
申し訳なさそうなお嬢様の声。
「いつでもおねぇちゃんの味方だよ、って言ってるじゃない。・・・ヴァイオレット、潜入に成功しました!」
私が元気に答えると、直の声がふふ、って笑って。
「こういうの好きですからいいですよ。・・・・同じくストレート。B地点に到着。標的はいつでも狙撃可能。」
スマホの向こうでおねぇちゃんこと、お嬢様がコホンと咳ばらいをして。
「・・・オーケー。では作戦を開始する!」

斎藤 菫です。
今日はお嬢様のお言いつけで、恋人の直と一緒に特殊任務についてます。
・・・と言ってもいつものように山中先生の監視ですけど。

昨日、おねぇちゃんから電話があって。
「あのね、1/31、さわ子さんのお誕生日なの。」
「・・・もちろん、さわ子さんのこと、信じてるの。信じてるのよ?」
「だけど・・・ファンクラブ、100人以上、いるみたいなの。」
「だからね、万が一ってコトがあるでしょ?」
電話の向こうで、おねぇちゃんは迷ってた。
「・・・でもこの間も、結局大丈夫だったんでしょ?」
私は以前、去年のバレンタインの時にこっそり先生を監視していた時の経験を元に言った。
・・・あれからもう一年経つんだなぁ。
「それはそうなんだけど・・・」
おねぇちゃんは珍しく言いよどんで。
「・・・あのね、ファンクラブ、男の先生もいるらしいの。」
「それにっ!相手が1人とは限らないじゃない?」
「それで・・・無理矢理・・・きゃーっ!」
・・・また誰かに変な情報をインプットされてるなぁ。
「いくらなんでもそれはないでしょ。学校内だよ?」

「甘いわ!菫!」

おねぇちゃんは決然と言い放った。
「さわ子さん、可愛いくせに隙だらけだから。そんな理性、すぐ吹き飛んじゃうわ!」
・・・じゃ、普段から襲われてるんじゃない?

「それにさわ子さん、ほんとに弱いんだからね!あそことか、あそことか、くにゅくにゅってすると、ふにゃんってなって、全然抵抗できなくなっちゃうんだから!」
・・・それは相手がおねぇちゃんだから、じゃないかなぁ。

「でもねでもね、それがまた可愛いの。普段は凛としてるくせに、とろとろに蕩けて『そんなとこ、やだ、やだぁ』とか、弱々しく押し返してくるの。」
・・・あの。生々しすぎて、次の先生の授業の時、困るんですけど。

「それでね?えっちであふれちゃうと、今度は『もっともっとぉ』っておねだりしてくるの。そしたら、今度は指、止めて、焦らしちゃったりして・・・ああ、もう、ほんとに、可愛いのよ?」
・・・もしかして、単にノロケたいだけなのかなぁ。

「分かった、分かりましたっ!やります!やりますっ!」
「ほんとっ!ありがとう、菫!こんなこと、菫にしか頼めないもの。」
・・・ああ。私はおねぇちゃんの向日葵のような微笑みを思い浮かべて。
結局のところ、私はこの笑顔に抗う術を持っていない。
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