律と澪の部屋

□My Precious Friends
1ページ/6ページ

律が交通事故のショックで私と過ごした長い時間を失ってしまってから。
私が一番大切にしていた居場所を失ってから。
正確には失うことを選択してから。
一週間が過ぎていた。

人間というのは便利なもので。私は自分の想いに鍵をかけて律の前で器用に幼馴染を演じていた。
「りっちゃん、うぃーす。こないだのドラマ、見た?」
「おお、唯。見たぞ。看護婦さんの目を盗んで、な!」
「りっちゃん、さすが!策士だねぇ!」
やっぱり唯とは気が合うみたい。
唯に向けられる律の笑顔が妙に私の胸をざわめかせる。
「・・・律、あんまり看護婦さんに迷惑かけるんじゃないぞー。」
「だいじょおうぶ!見つかってないから!」
それでも。律の笑顔は誰にでも平等に向けられる。
もちろん私にも。
それを見るだけで幸せになれた。
意気地なしの私は段々とその小さな幸せに慣れてきて・・・また一週間が過ぎた。

律は記憶は戻らないものの、状態が安定したため、無事退院できることになった。
ただ律が戻るのは、私との部屋ではなく、しばらく様子を見るため、実家。
その代わり、退院祝いは私と律の部屋で行われることになった。
放課後ティータイムのメンバーと和。さわ子先生と憂ちゃんはどうしても外せない用事があるとかで欠席。
大学に進んだ私達はお酒も飲めるようになっていたけど、律がNGのため、お茶とケーキのみ。
「あ、でもこれ、ほんとに高校の頃、思い出すね。ムギちゃんのケーキ、おいしー。」
「律、部活の時のことはどこまで覚えてるの?」
「それがさー。ぼんやりとしか分かんないだよなー。きっと登場人物がはっきりしないからじゃないかなー。」
「む、それはもったいない。よし!じゃあ一年の時からずっとイベント挙げていこうよ!最初は・・・えーと、廃部?」
「・・・最初は律が無理矢理私を軽音部に入れたんだよ。」
「先輩は誰もいなくて廃部寸前。私だって文芸部に入ろうと思って入部届まで書いてたのにさ。律がこう、びりーって。」
私がちょっと大げさに入部届を破く仕草をするとみんながどっと沸く。
「そんなことあったんだー。軽音部で知らないことなんかないと思ってたけど、意外にあるねー。」
「そりゃそうだろ、唯は私らの代では一番最後だったんだから。元々中学の頃に、律がバンドやろう!って言い出してさ、律がドラムで。私がベースで。ほんとはあの時が始まりだったんだよな。」
あの時もびっくりしたけど。断る理由なんか何もなかった。だって小さい頃からずっと律が私の手を引いて新しい扉を開けてくれたんだから。
「律・・・でもさ、あの時私を誘ってくれてありがと。おかげでこんなにいい仲間ができたよ。」
「・・・よせやい、澪ー。照れるだろー。」
「はいはい!次は『天才ギタリスト現る!』だよね!」
「待って待ってぇ。『美人キーボード加入』が先!」
「お、今自分で美人って言ったぞー。」
「ああん、それを言うなら唯ちゃんだって自分で天才って言ったー。」
「唯はどっちかっていうと災いのほうの天災だけどな。」
「・・・私の順番が来るまでに時間がかかりそうですねぇ。」
「私のはやめておくわね。律には思い出したくないことが多いだろうし。」
和が言うとみんながどっと笑った。律だけが一人、きょとん、としていた。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ