律と澪の部屋

□私を月まで連れてって!
1ページ/14ページ

「きれいな満月だね。」
「うん。中秋の名月ってヤツだな。」

私は空に浮かぶまんまるな月を見上げるフリをして私の恋人の横顔を眺めた。
青い光を放つ月は見ているとなんだか吸い込まれそう。
濡れたようにしっとりとした長い黒髪。
それとは対照的な透き通るような白いうなじ。
わずかに震える長いまつげ。
ほんのりと紅い唇と頬がなければモノクロの写真と間違えてしまいそう。

「ねぇ、律・・・」

私はぞくり、と嫌な予感がした。
なんだよ。なんでそんな悲しそうな瞳をしてるんだよ。
次に澪が言う言葉を聞いちゃいけない。
私の本能が全開で警報を鳴らしていた。
何か取り返しのつかない事を澪は言おうとしてる。
「あっあー。澪。お団子!お団子食べたい!」
なんでも良かった。澪が切り出そうとしているコトから話を逸らせるなら。
「ねぇ、律。聞いてよ。」
「私、お月見の団子好きなんだよねー。素材の味っていうの?素朴な甘さが癖になるっつーかさぁ!」
「・・・ねぇ、律。お願い。」

「嫌だ。やだやだやだっ!」

私は駄々っ子のように首を振って耳をふさいだ。
「・・・ごめん。」
澪が消え入りそうな声が何故か聞こえて。
大人しくて引っ込み思案だった澪の声で。
もう一度、ごめん、って。

「実は私、地球人じゃないんだ。」
私は目が点になった。
「や、やだなー。冗談きついよ、澪。」
言いながら私はそれが残念ながら冗談などではないことを悟っていた。
少なくとも私の知っている澪は嘘がつける奴でも上手く演技ができる奴でもない。
ばかがつくくらい。正直で誠実な澪。
でもこの澪は嘘をついていてほしい。
矛盾した思いが私の中で渦巻いていた。
「そんで。今晩、月に帰らなきゃならないんだ。」
「えええ?今晩?月へ?」
澪は涙を堪えてうつむいた。
「・・・だまっててごめん。・・・だけど律には。」
うつむいたまま、ぼそぼそとつぶやいた。
「律だけにはお別れ、言おうと思って・・・」
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ