律と澪の部屋

□大好き!
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「あれ?澪?」
その日はちょっと用事があって。
澪とは別行動になって。
翌日が休みなので、ついついのんびりしてしまって、遅くなった。
終電近くなって相当混んでいる電車。

そこで私は偶然恋人の顔を見つけた。
見間違えるはずはないけど。
私は苦労して体の位置を入れ換えて、もう一度澪を探した。
やっぱり澪。どこ行ってたんだろ?
澪は真っ赤な顔をして何かをガマンしている様子だった。
「澪?」
おトイレでもガマンしてるのかな。
私は混雑の中、ずりずりと体を動かして。
「みーお?どした?」
澪はまだ私に気付かない。
駅について人が降りるのを利用して、ようやく近くまでたどり着いて。
・・・なんてこった。良く見るとうっすら涙を浮かべている。
「澪!どうした?どっか痛いのか?」
私は急に心配になって、ちょっと大きな声で恋人の名を呼んだ。
真っ赤になった顔を伏せて、眉根に皺を寄せていた彼女は。
はっとして顔を上げると、あろうことか、私に抱きついてきた。
「うおぅ?ど、どうした、澪?」

なんだなんだ?これってご褒美?

「なんだ。そんなに逢いたかったのか?」

私って愛されてるなぁ・・・

「嬉しいけど、ちょっと恥ずかし、い、よ・・・澪?」

にへら、とにやけた後、澪の様子がおかしいのに気付いて。
電車の混雑の中、澪はぎゅう、と私を固く抱きしめて。
「りつ。りつりつりつぅー・・・。」
隣の駅に着くまで。澪は私の腕の中で泣いていた。

取り敢えず隣の駅で降りて。
澪が落ち着くまで、駅のベンチで彼女を抱きしめてやった。
「律っ、ごめんっ、ね。終電っ、終わっちゃ、った、ね。」
ひっくひっく、とえづく彼女にあったかい缶コーヒーを渡して。
「ん、いーよ。明日休みだし。」
澪のほっぺを撫でてやる。
彼女がこくり、と缶コーヒーを飲むのを待って。
「それより、どっか痛いのか?歩ける?」
澪はふるふる、と首を振って。
「・・・大丈夫。歩けるよ。」
ようやくちょっとだけ笑った。
私はその笑顔にほっとして。
「じゃ、澪。申し訳ないけど、駅、閉まっちゃうから。もう行こう?」
澪は素直にうなづいた。
「うん。手、貸してくれる?」
差し伸べられた手を取って立たせてやる。
その手はまだ震えていて。
「あっ・・・」
一度立った澪はちょっとよろけて。
慌てて背の高い彼女を抱きとめる。
「あはは、ごめんっ、ちょっとよろけちゃった。」
努めて明るく笑う彼女。

・・・嘘つけ。
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