唯と梓の部屋

□Trick and Treat !
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「・・・唯さんが変なんです。」

私はうつむいてボソボソとつぶやいた。
「変って・・・唯が変なのはいつもの事じゃないか。」
「こら。混ぜっ返すなよ。どう変なんだ?私達、いつも一緒にいるけど、特に変わった様子はないけどなぁ。」

ここはN女子大学軽音楽部部室。
私と唯さんはたまにここを待ち合わせ場所にしていた。
さすがに自分から部室に入る事はなかったけど。
今日みたいに、先輩方に誘われれば、中に入ってみたりもしていた。
いつもは放課後ティータイムの練習が終わった後なんだけど、今日はムギ先輩が急用でダメになったとかで、中止。
私は個人練習に来ていた律先輩と澪先輩に最近おかしな行動を取る私の恋人のことを相談していた。

「いや、何が変かと問われれば大したことないんですけど・・・」
私は首をかしげて。
「なんだか地味なイタズラ?意地悪?をしかけてくるんです。」
「例えばこの間のデートの時の事なんですけど・・・」

・・・
(回想シーン)
・・・

「ねぇねぇ、梓、このジュース、おいしいよ?」
「え?ほんとですか?」
「うん。一口、あげるよ。」
私は唯さんのストローをくわえて。
ちょっとだけ、ちゅ、と吸ってみる。
「・・・ほんとですね。おいしいです。」
ちょっとトロピカル。マンゴー系かな。
「ね、おいしいでしょ?梓にも半分あげるよ。」
唯さんは有無を言わさず、ウェイトレスさんにストローをもう一本頼んで。
「い、いいですよ。唯さんのジュースなんですし。」
「いいから、いいから。あんまりにもおいしいから梓と分かち合いたいんだよ。」
「で、でも・・・」
ああもう。この人は分かっているんだろうか。
「・・・お邪魔します。」
唯さんの反対側からストローをくわえる。
ちう、と二人で吸ったところで、妙に恥ずかしくなって。
「あ、あの、唯さん?」
「さっきのもそうですけど。これって間接キスですよね?」
となりのテーブルのお客のひそひそ声が聞こえる。
「かわいー。あの娘たち、カップルストローしてるー。」
「ほんとだ。真っ赤になってる。かーわいい。」
私も唯さんもストローをくわえたまま、うつむいて。
ちびちびジュースを飲んでいたけど。
唯さんは、ちゅるるる・・・っていきなりジュースを飲みほして。
何かを期待している目でこっちを見てる。
「な、なんです?」
私は唯さんの目が一瞬残念そうに曇ったのを見逃さなかった。
「んーん。なんでもないよ。」
でも唯さんはいつものように、にぱって笑ったから。
私はその笑顔にほっとしてしまった・・・
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