唯と梓の部屋

□君の名を呼べば Side:唯
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「逢いたいよぅ、梓。」
唯さんは電話するなり、泣きそうな声で言った。
「もう。ガマンしようって約束したばっかりでしょ。唯。」
私の誕生日以来、私達はまた逢うのをガマンしてた。
「だってだって。逢いたいんだもん。」
「私だって逢いたいんだよ?でも・・・」
唯さんのこと、『唯』って呼ぶようになって。
同い年だから。丁寧な口調もさん付けもおかしいって。
私の誕生日から2週間が過ぎようとしていた。
その間、土日のどちらか、予備校の帰りにちょっとデートするだけのいつものペースに戻っていた。
「・・・N女子大、合格するまで、待って。後で、『あの時、もっとやっとけば良かった』って思いたくないから・・・」
「うー。それは、分かってるんだけど、さぁ。」
2週間、電話で唯って呼んで。同い年と同じ口調で話しかけて。
ようやくそれにも慣れてきて、意識せずに話せるようになってきた。
「ね、困らせないで、唯。そのかわり・・・」
「唯の誕生日は予備校、終わったらデートしようよ。どこ行きたい?」
「うー。じゃあ、遊園地がいい。」
ふふっ。どっちが年上だかわかんないよ、唯。
私は含み笑いを浮かべながら。
「うん。遊園地デート、だねっ。思いっきり遊んじゃうよ?」
努めて明るく言った。
「うん・・・」
唯は相変わらず割り切れない声で。
「だけど私は。今、梓をぎゅー、ってしたいんだよ。」
「だって・・・もうすぐ終わっちゃう。私達が同い年でいられる時間。」
「唯・・・」

唯はずるい。
そんな風に言われたら、私だって逢いたいの、止められなくなっちゃう。

「じゃあさ、梓。・・・ボソボソ・・・聞かせて?」
唯は珍しく口ごもって。
「え?唯、今なんて?なんて言ったの?」
電話の向こうで唯がちょっとためらって。
「・・・えっちな声。逢うの、ガマンするから、梓のえっちな声聞かせて?」
「へっ?」
私は唯がなんて言ったのか、反芻して。
「え、えっちな声って・・・えええ?えっちな声ですよね?」
世にも間抜けな答えを返した。
「うん。だめ?」
「いやいやいや。それはっ・・・それはだめですっ。だって、だって、自分で触ってるのを唯さんに聞かせるってコトですよね?」
「梓・・・口調と呼び方、戻っちゃってる。」
唯さ・・・唯が不服そうな口調で抗議する。
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