さわ子と紬の部屋

□わがままなプロポーズ
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土曜日。
天気予報が嘘をついて。
どしゃ降りの雨が降った。

今日は出かけなくて正解だったわね。
・・・ムギにもフラれちゃったし、ね。

ムギと恋人になってから。
ムギはほぼ毎週末、約束もなしにふらりと私の部屋に来て、一日を過ごし、夕飯を食べた後、最後にキスをして帰っていくのが普通になっていた。
部屋に来るなり、「さわ子さん!遊園地行きましょう!早く早く!」となることもあれば。
「おはようございます〜」と寝ぼけている私にキスをして、ベッドに潜り込んで、一日中そのまま、という事もあった。
・・・まるで猫みたい。

放課後ティータイムの他のメンバーに聞いてみたが、この気ままさは私だけに発揮されているようだった。
その事は私にとって心地よい事実だった。
私だけに甘えるムギが可愛かったし、ムギに振り回されるのが楽しくてしょうがなかった。
猫と違って、来られない時だけ、ムギから連絡があった。だから私もどうしても部屋にいられない日はムギに連絡した。
今日はそんなムギの来ない一日。平凡に終わる一日のはずだった。

1人の夕飯を食べて。
安物のワインを飲んで、そろそろ寝ようかな、と思っていた時だった。
部屋のチャイムが激しく連打される。
「・・・誰よ、もう。こんな時間にぃ・・・」
ワインで酔った頭でインターホンに出る。
「はぁい。山中です。」インターホンはしばし無言。
「さわ子さぁん・・・私です。お願い、助けて・・・」
「ムギ?」
酔いが一気に覚める。只ならぬ様子に玄関のドアへ駆け寄る。

ドアを開けると、ずぶ濡れのドレスを着たムギが泣きながら立っている。
「さわ子さん・・・私・・・」
「・・・いいから。まず入って?」
ただ事じゃない。こんな展開、テレビのドラマだって、非現実すぎてやらない。
ただ、ムギならこのくらいのことがあっても不思議じゃない。
だいぶ、私もこなれてきていた。
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