さわ子と紬の部屋

□わがままなプロポーズ
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ムギはぽろぽろっと大粒の涙をこぼして。
「わっ、私っ、絶対嫌だって。私には好きな人がいるからって。断ったんです。」
「そしたら、父様はそんなの若いうちだけだって。お金持ちで将来も有望な男の人の方がいいに決まってるって。」

ずきん。胸の奥の方が痛む。
そりゃ、そうよね。私だってそう言うわよ。
・・・こんなにこの娘のこと、好きになる前だったら。
そんなの、一人前の大人なら誰だって分かってる。
・・・だってしょうがないじゃない。好きになっちゃったんだもの。

「今日は家族で食事に行くことになっていて。車の中で、そのお見合いの相手も来ることを聞かされたんです。」
「そんなのずるいって言ったら、父に怒られて。で、赤信号で車が止まった隙を見計らって逃げてきちゃったんです。」
「そう・・・。」

いいんだろうか。この娘は本当に多くの人に愛されて何の不自由もなく育ったんだろう。
このまま、いい人と結婚したら、きっと何の苦労もせず、幸せに暮らせるはず。

「ひぐっ・・・わたしっ・・・父様に逆らったのなんてっ・・・生まれて初めてでっ・・・」
「怒られたのだってっ・・・小学生の時以来でっ・・・」

私はじっとムギを見つめた。
あの、ひまわりみたいに笑うムギが、今は涙を流してしょんぼりしている。
着ている物といったら、一品物の高級ドレスがだるだるのスェットになっている。
好きになっちゃったから?私がこの娘を不幸にしていいものだろうか?

ムギは私にすり寄ってくる。
「さわ子さぁん。抱きしめて。抱きしめてくださぁい。」
私はずるい。
泣いているムギを一人にしたくなくて、なんて自分に言い訳。
その柔らかい身体を抱きしめて。耳元で囁く。
「大丈夫。大丈夫だから、ね。ムギ。愛してる。」
一人になりたくないのは私。そんな事、分かってる。
・・・うるさい。言われなくたって分かってるわよ。

ムギにせがまれる前に私はキスをして。
優しいフリをして、ムギをベッドに押し倒した。
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